概要

旬なニュースの当事者を招き、その核心に迫る報道番組「深層NEWS」。読売新聞のベテラン記者で、コメンテーターを務める伊藤俊行編集委員と、元キャスターの吉田清久編集委員が、番組では伝えきれなかったニュースの深層に迫る。

厚生労働省の社会保障審議会年金部会は年金制度の見直し案をまとめた。このままでは給付水準が低下する恐れがあるためだ。結論を政治の調整に委ねたところもあり、議論を引き継ぐ政府・与党と野党は真剣に向き合う必要がある。元厚労相で立憲民主党代表代行の長妻昭氏、経済評論家の加谷珪一氏を迎えた昨年12月12日の放送を踏まえて、編集委員2氏が語り合った。

年金水準低下真剣に対策を

与野党で議論深まるか

「基礎年金をこのまま放っておくと、実質価値で3割下がってしまう。下げ止める方策をみんなで一生懸命考えている。私も、その方向性に同感で、知恵を絞っている」=長妻氏

「この先、団塊ジュニア世代が年金をもらい始める。現役時代に年収がたくさんあった人は良いが、そうではない人は相当生活が苦しくなる。何とかその部分を底上げすることが、今回の見直しの目的だ」=加谷氏

伊藤5年に一度の年金改革の議論が進んでいます。現状を放置すると基礎年金の給付水準は大きく目減りし、それだけで老後の生活を支えることは難しくなると予想されています。その対策として、厚生年金への加入者を増やすことや、基礎年金を底上げすることなどが検討されています。

有識者で作る審議会は、パート労働者が厚生年金に加入できる要件を緩和することで一致しました。年収「106万円の壁」は撤廃されます。焦点の基礎年金の底上げについては、厚生年金からお金を回して底上げするやり方が提案されましたが、意見は分かれ、さらに検討を深めることになりました。本人が保険料を払わずに国民年金を受け取れる第3号被保険者の廃止も話し合われましたが、国民的議論が必要として先送りされました。

年収「106万円の壁」撤廃の狙いは©️日本テレビ
年収「106万円の壁」撤廃の狙いは©️日本テレビ

政府は、通常国会への年金改革関連法案の提出を目指しています。与党と今後調整の上、法案をまとめ、国会で野党に理解を求めます。ゲストの長妻さんが、基礎年金の底上げや第3号被保険者の縮小を含めて、改革の方向性を基本的に是とし、野党第1党として制度見直しの議論に臨みたいと発言されたことは印象に残りました。衆院選の結果、与党は少数に転じ、野党の協力がなければ、法案は成立しません。昨年の臨時国会では、与党と国民民主党が税制協議を行い、年収「103万円の壁」が動きました。年金改革の議論も与野党で進めることになるのかどうか。注目したいと思います。

年収「106万円の壁」撤廃の狙いは©️日本テレビ
年収「106万円の壁」撤廃の狙いは©️日本テレビ

吉田1990年代、大競争時代という言葉が盛んに使われました。その流れで働き方の多様化が進み、非正規雇用も増えました。硬直した労働市場を見直す狙いはありましたが、景気の低迷が長引く中、やむを得ず、非正規で働くことになった人もいます。就職氷河期世代と呼ばれ、50歳代前半の団塊ジュニアは人口も多い。年金をもらい始める65歳までに、急いで対策を進める必要があります。日本の経済政策がうまくいかず、しわ寄せを受けている犠牲者とも言えます。そうした世代に、政治はあまり思いが至っていなかったのではないでしょうか。

厚生年金のお金を使って基礎年金を救済する案が議論されていますが、厚生年金の保険料は従業員と事業者が折半して負担しており、理解を得る必要があります。厚生年金の給付水準も当面の間は低下してしまいます。また、基礎年金の半分は国が負担しており、給付水準を引き上げると、国の追加負担が必要になります。財源として将来の消費税の増税も考えられます。参院選を控える中、給付の抑制や負担の増加の議論に踏み込めるのかどうか。政府と与野党は、見直しの効果と課題の両方を示しながら、年金改革を進める意義を丁寧に説明してほしいです。

厚生省 基礎年金の3割底上げ案 狙いは©️日本テレビ
厚生省 基礎年金の3割底上げ案 狙いは©️日本テレビ