早朝に起き出して、決まった時間に食事をとる夫と、夜更かしを楽しみ午前中はのんびり過ごして好きな時間に食事をする浅野さんとは、台所に立つ時間がずれている。だから、浅野さんは夫が料理をしたり、食べたりしている姿を、ほとんど見たことがない。ご飯を炊くのも、洗いものをするのも夫婦別々だ。

そうして領域を分けることで余計な衝突を避けるのも、長い夫婦生活で培った知恵かもしれない。

「夫の協力がないまま子育てに孤軍奮闘していた頃には、『老後、夫が病気になっても面倒なんてみてやるものか』という思いもあった。でも、食事の支度というストレスから解放された今なら、夫に優しく接することができるような気がします。夫もそういう気持ちなら、なおうれしいですけれど(笑)」

 

「自分のために時間を使わせていただきます」

自分のやりたいことを見つけた妻が、上手に家事からフェードアウトしていった例もある。

「春と秋はイベントが多いので、全国を飛び回っています」

と笑顔で語るのは、田村みどりさん(69歳)。犬のしつけ教室のインストラクターや保護犬の里親を探すNPO法人の理事を務めるなど幅広く活動中だ。

そんな田村さんだが、24歳で結婚して以来、55歳で犬の飼い主の相談に乗るカウンセラーの資格を取得するまでは、自営業の夫を支えながら4人の子育てを担う専業主婦だった。

「資格を取ったら、今度はそれを生かしてNPOでペット関連のボランティアをしてみたくなって。家族には『私はこれまで30年間、妻として、母としての役目を果たしてきました。これからは、自分のために時間を使わせていただきます』と宣言したんです。でも、習慣って怖いわね。なんだかんだ言って、家事もほとんど自分でしてしまって」

たとえばNPOのイベントがある週末は、朝3時に起きて掃除や洗濯を済ませ、朝食、昼食は電子レンジであたためれば食べられるように準備。夕食も下ごしらえまでしておいて、帰宅してから仕上げていた。

「見兼ねた夫が、仕事が休みの日に食事を作ってくれた時期もあったのだけど……。ダイコン入りのカレーなど不思議な料理をいただきました(笑)。私はせっかく作ってくれたのだからと食べるのだけど、外で美味しいものを食べなれた子どもたちは、あからさまに残すのね。それで、夫も作るのをやめてしまって」

料理の負担減はなかなかうまくいかなかったが、取り込んだ洗濯物は家族ごとのトレーに分け、畳んでしまうのはそれぞれが行うシステムにしたり、自分の部屋は自分で掃除するなど、少しずつ家事の省力化を進めていった。

「すべての家事を一気にやめるのは大変だけれど、『ここまでは私がするから、その先はお願いね』というのなら、気軽な感じがして」