『小さな場所』著:東山彰良

 

今の台湾のリアルな空気が濃厚に漂う連作短篇集

直木賞受賞以来、中央公論文芸賞、読売文学賞等、名だたる文学賞を受賞し続け、今、最も注目を集める著者の新作は、台北にある実在の通り「紋身街(もんしんがい)」を舞台に、9歳の少年とそこに集う人たちの交流を描いた連作短篇集だ。

読み始めるやいなや、すぐにこの「紋身街」という小さな通りに魅了される。紋身とは刺青のことで、その名の通り刺青店が軒を連ねている〈街の恥部のような細くて小汚い通りだ〉。

そこで主人公の小武(シャオウ)は家業の食堂を手伝ったりしながら暮らしていた。彼の周りの大人たちは皆一様にわけあり、日陰者ばかりで、その強烈キャラからも目が離せない。

刺青師のケニーとニン姐さん。拝金主義者のケニーと彫り師としてのプライドを胸に秘めているニン姐さんは、衝突ばかりしていた。そのいがみ合いから小武は「刺青観の相違」なるものに気づいていく。

表題作「小さな場所」は、小武が友人たちと好きなものを入れる「楽園の壺」に何を入れるか、と話し合っているうちに喧嘩になってしまうという少年らしい話だ。小武がその壺に大好きな「紋身街」を入れることを譲らなかったから、という。気まずい喧嘩別れの後、ある友人の家で奇妙な事件が起きる。

小武が遭遇する胡散臭い大人たちは、どうすることもできない弱さを持て余しながら、社会の底辺であがくように生きているが、大切なことも教えてくれる。奇妙な事件の数々からは今の台湾のリアルな空気が濃厚に伝わってくるのだ。

目の前で起こっていることすべて丸ごと受け止めようとする小武。その「地元愛」が彼を成長させていることがわかる。

短篇ひとつひとつ、登場人物が愛おしい、どこか懐かしい作品集である。

『小さな場所』
著◎東山彰良
文藝春秋 1500円