「ヴィーナスの誕生」はなぜ名画か
絵を見るのは好きだ。小学生の頃から「図画工作」の教科書に載っている絵の中でどれが素敵か考えるのは楽しかったし、今もちょくちょく展覧会を見に出かける。だから絵に対する好みははっきりあるのだけれど、どうしてその絵に惹かれるのか、どういうところを美しいと感じるのか、他人にわかるように説明するのはあんがい難しい。……でも、そんなふうに思っているのは私だけじゃないはず。
本書は、私たちが絵を見たときに感覚的に受けとめている色や形について、どこがどう優れていたりダメだったりするのか、豊富な図版を駆使しながら論理的に示し、言語化してくれる。
ルーベンスの絵のダイナミックな躍動感は何から生じているのか、なぜフェルメールの絵はいつまでも眺めていたくなるのか、ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」が名画である理由は。絵を見るコツを知れば、なるほど! と腑に落ちることばかり。
画家の人生を知ったり美術史を勉強したりする方法ではなく、まずはじっくり絵と向きあってそれがどう描かれているのか見きわめることが、ミステリーの謎解きに似たスリリングな美術鑑賞になる。
視線の動かし方、線、バランス、色、構図。画家が何をどのように見せようとしているかを解く鍵はちゃんと絵の中に隠れていて、適切に読み取りさえすれば「好き嫌い」とは異なる基準で絵を理解することができるのだ。
名画と呼ばれる絵がいかに考え抜いて描かれているかもわかってきて、よく知っているつもりだった絵も新鮮に見えてきそう。
2019年5月の刊行。現在3万7000部まで伸びていて、ロングセラーになりそう。流行に左右されない内容に知的好奇心が満たされ、わくわくする。
『絵を見る技術 名画の構造を読み解く』
著◎秋田麻早子
朝日出版社 1850円
著◎秋田麻早子
朝日出版社 1850円