厨房のチーフ3人。左より、みな子さん(63歳)、タツさん(83歳)、寿恵さん(82歳)

高齢化が進む宮崎県西米良(にしめら)村で、住民が一丸となって取り組む村おこし。その成功を支えたのは、郷土の味を受け継ぐ女性たちです

地産地消レストランを始めた理由

宮崎市内から車で約1時間半。山道を抜けると、かやぶき屋根の古民家が立ち並ぶ「おがわ作小屋(さくごや)村」に到着する。古民家のレストランで提供されるのは、椎茸、たけのこ、大根、ユズ、赤ピーマンなど地元で採れる食材をふんだんに使った郷土料理。中でも一番人気は16種類のおかずを小皿に盛る「おがわ四季御膳」だ。すべて地元の女性たちの手による〝おふくろの味〟。これを目当てに年間2万人もの観光客が訪れる。

彩りも美しい「おがわ四季御膳」。地元米のご飯と呉汁(ごじる)がつく

「作小屋とは、明治時代に自宅から離れた農地で作業をする人が寝泊まりするために建てられた小屋のこと。村おこしをする際に、観光客にも癒やしの場として滞在してほしい、という思いで再現したのです」と話すのは、レストランを運営する地元住民の協議会(小川作小屋村運営協議会)の会長、上米良(かんめら)秀俊さん。同協議会は、地域の活性につながる活動が評価され、第48回日本農業賞・食の架け橋の部で特別賞を受賞した。

西米良村小川地区は林業など基幹産業の衰退により過疎高齢化が進み、2000年代半ばには人口約100人、高齢化率は70%に達した。地域の存続を懸けて住民が一丸となって取り組んだのが、レストランを核に売店や宿泊所などを設けた交流施設「おがわ作小屋村」の建設・運営だった

昔話の世界にタイムスリップしたような、のどかな風景が広がる「おがわ作小屋村」。春は山一面に桜が咲く

「2009年のオープンまでは、毎週のように研修や勉強会を行い、萱ぶき屋根の萱も自分たちで集めて。村全体で協力してくれました」

その活動をテレビなど地元メディアが紹介したこともあり、オープン当日から行列ができるほどの大盛況。「お客様をお待たせして申し訳ない気持ちでしたが、お帰りの際には『昔懐かしい味!』とほめてくださったのが、うれしかったですね」

〝食〟を介して交流が広がる

厨房を担うのは8名の地元の女性たち。ベテラン3名がチーフとして交代で指揮をとる。月替わりの「おがわ四季御膳」の内容と盛りつけを考えるのもチーフの仕事だ。

「地産地消が基本。季節の食材を無駄なく使い切るよう工夫しています。スタッフは専業ではなく、農業などの仕事がある人ばかり。ユズ農家の人が『苦みの出ないユズの甘露煮』の調理法を教えてくれることも。それぞれの専門分野の知恵を出し合っています。この歳になっても覚えることはたくさんありますね」

とチーフを務めるみな子さん(63歳)。煮しめなど伝統的な家庭料理以外にも、新たなメニューを開発して御膳に加えているという。「早生の里芋はやわらかすぎて煮物に向かないので、揚げ物に。豆腐は手作りしていますが、搾りかすのおからを活用して天ぷらに。どちらもお客さんに好評です」

「創意工夫して料理を作る厨房のスタッフには頭が下がります」と上米良秀俊さん

60代と80代のチーフたちの世代は、幼い頃からおばあちゃんが調理するのを見て、舌で味わい、自然に郷土料理を身につけてきた。レシピだけでは伝えられない味と技を若い世代につないでいくことが課題だ

「レストランができたことで地元野菜や山菜の消費が増え、この10年で生産量が拡大しました。減少し続けていた農家戸数と耕地面積は増加に転じています。さらにUターン、Iターンする若者が増え、高齢化率も低下。雇用の場を確保し、若者の定住をはかり、地域を存続させるという当初の目的は果たせたと思います」

そう語る上米良さんに、村の一番の魅力を問うと「人の絆と、おもてなし」という答えが返ってきた。

「何かあったら助け合う、人が訪ねてきたら笑顔でもてなす文化が、脈々と受け継がれているのです」

みな子さんたちスタッフは、配膳や見送りの際にお客さんと気さくに言葉を交わす。「ユズ味噌がおいしかった。どこで手に入りますか?」といった会話がきっかけで、何人かのお客さんとはその後も交流が続いているという。

「お互いに、土地の食品を送り合ったりしています」(みな子さん)味と人に惹かれ、遠方からのリピーターも多い。〝食〟を介した交流が、小さな村の未来を広げていく。

宮崎県西米良村

西米良村は宮崎県西部に位置し、熊本県に隣接。小川地区を含む8地区からなる
アクセス/宮崎空港から車で1時間40分、人吉ICから1時間40分、西都ICから40分

【お問い合わせ】
全国農業協同組合中央会 (TEL)03・6665・6010

令和の桃源郷 おがわ作小屋村 (TEL)0983・37・1240