腹膜透析は緩和ケアでもある
森 小型車、いや、自転車と言ってもいいでしょう。小回りを利かせて必要なところだけ巡るので、水分も老廃物も血液透析ほど多くは抜かないぶん、穏やかで体に優しい。だから、高齢者や終末期の患者さんが透析しながらも苦しまずに過ごせます。
堀川 この先、数十年生きるために十分な毒素除去をするのは無理でも、今を生きるために必要な分量を抜きつつ、大切な物質は抜かない。私が取材中にお会いした患者さんも、病院で血液透析をしていた頃はほぼ寝たきりだったのに、腹膜透析に変更したら腹水が抜けて食欲や血圧が戻り、自宅や施設に帰ることができました。
森 腹膜透析患者さんの最期は本当に穏やかで、眠るように逝かれます。娘さんが足をさすってあげている間に息を引き取られたケースもありました。亡くなられた後、娘さんは「私、母を看取れなかったんです」と私におっしゃった。
とんでもない。寄り添うご家族も気づかれないほど、静かに、安らかに逝かれたのです。最高の看取りだったといえるでしょう。
堀川 腹膜透析の患者さんを拝見していると、亡くなる当日、もしくは前日まで普通に透析できている。そしてご臨終間際も苦しまれないのですね。鹿児島で取材したケースですが、腹膜透析の患者さんとご家族、医師と訪問看護師、ヘルパーさんが揃って、ご最期を前に笑顔で写真を撮っているのを見た時は本当に驚きました。
森 命が尽きていくことを皆が受け入れて、逝く側も見送る側もそれぞれ納得しているから、笑顔になれるのでしょう。腹膜透析の患者さんは適度な除水ができて、かつ抜きすぎていないから、見た目も元気な頃とそれほど変わらないですしね。