かぎや政秋 ときわ木

冬でも青々とした
常葉の松を模した菓子。
優美で力強い幹の意匠を
小豆でシンプルに表現する

松といえば神の宿るめでたい植物の代表格。「常葉(ときわ)の緑」と賞されて、絵画や工芸品など、日本の伝統美には欠かせないモチーフです。和菓子の意匠にもたびたび登場しますが、多くは青々とした葉を模した常葉(常磐)の語に寄り添ったもの。

ところがこの「ときわ木」は、小豆で松の幹を模した、一見地味めの菓子。京の和菓子には、直接的な表現を避け、ひとひねりした抽象表現をよしとする美意識がありますが、緑を用いず、あえて幹の意匠で「常葉」を表すのがこの菓子の魅力です。

食感も独特で、ほどよい湿り気があり、口に含んだ時に小豆がほろっと解(ほど)けます。つなぎと保水のために少し寒天を加えているそうですが、それを感じさせないさじ加減も絶妙。

一年でいちばん寒く、緑の少ないこの季節、「常葉」という言葉に宿る生命力をしみじみと感じながらいただきたくなる、そんな菓子の一つです。