台風の夜、鍋を囲み身を寄せ合って

「お隣に住む女性との交流を通して、人生に張りが出ました」と語るのは、都内在住の佐治恵子さん(57歳・会社員、仮名=以下同)。現在80歳の峰さんが隣に越してきたのは5年前。それまで向こう三軒両隣の住人とはクールな近所づきあいで、佐治さんもそれが楽でいいと思っていたという。

峰さんとも、顔を合わせたら会釈する程度だった。しかし、地区のゴミ出しのルールが変更になり、お隣さんということで、佐治さんから峰さんに詳細を伝えることになった。

「今にして思えば、運命的な出会いでしたね。峰さんはその時、世間とのおつきあいがほぼなかった、とおっしゃいました。でも私は話してみて、ハキハキとした口調が朗らかで人当たりもよく、素敵な女性だなあと思ったんです」

佐治さんが自己紹介を兼ね、夫と娘との3人暮らしで昼間は仕事で留守にしていることを伝えると、「女の50代って大変よね」と優しく寄り添ってくれた。

「気づいたら私、愚痴をこぼしていました(笑)。それから時折、峰さんの家にお邪魔して、仕事や家庭の悩みを打ち明けるように。次第に峰さんも、自分のことを話してくれるようになったんです」

とはいえ、佐治さんが峰さんの個人情報として把握しているのは、夫に先立たれて一人で暮らしているということだけ。お互いの深い部分には立ち入らないというのが、暗黙のルールだ。それでも絆は深まっていった。