しばらくそうしていると、そばに乗用車が止まった。中年の男性が運転席から降りてきて、「お運びしますよ」と言うではないか。こちらが恐縮しているうちに、手際よくわれわれの荷物を助手席に積み込んでくださる。

町内でたまに見かける程度で、名前も知らない方だった。お言葉に甘え、われわれ夫婦も後部座席に乗せてもらうことに。

自宅まで送り届けてくれた別れ際、男性は頭を下げながらこう言った。「実は以前うちの母が、あなたさまに家まで送っていただいたことがあるんです」。

そう言われれば、と思い出す。夫の運転で車を走らせていたら、老婦人が、ちょうど今日の私たちのように坂道でひと休みしているのを見つけて、自宅までお送りしたことがあったのだ。

因果はめぐる……。小さな恩返しに、胸があたたかくなった。


※婦人公論では「読者のひろば」への投稿を随時募集しています。
投稿はこちら

※WEBオリジナル投稿欄「せきららカフェ」がスタート!各テーマで投稿募集中です
投稿はこちら