賞味期限の罠に気をつけて
突然ですが、卵は57日間、生で食べられることをご存じでしょうか。日本における卵の賞味期限は、日本卵業協会によって14日間と決められています。これは気温が25度以上の夏場に、生で食べられるか、を前提に決めたもの。気温が10度程度の冬であれば、産卵から57日間も生で食べることができます。
産卵からパックされるまでの7日間を引けば、パックされた日から50日間は食べられますし、仮に賞味期限を過ぎても火を通せばいいわけで、ロスを避けやすい食べ物だと言えるでしょう。(ただし、火を通した卵は日持ちしないので、すぐに食べてください)
賞味期限が過ぎた食べ物を危険視する前に、気をつけなくてはいけないのは「消費期限」のほう。消費期限とは、日持ちしないお弁当やサンドウィッチ、お惣菜、生クリームを使ったケーキ、精肉、鮮魚などに表示されている「食べても安全な期限」のことで、これは必ずその期日までに消費する必要があります。
一方、賞味期限とは「おいしく食べられる期限」を言います。こちらは、実際より短めに設定されていることがほとんど。たとえば、本来10ヵ月はおいしく食べられるのに、安全を期して8ヵ月、と8割以下に期限を狭めて表記されることが往々にしてあるのです。
これは、万が一のことを考えて、かなり前倒しで期限を設定する日本らしいやり方によるもの。企業によって期限の決め方はまちまちで、中には6割ほどに設定しているところも。つまり、賞味期限を少々過ぎたからといって、食べられなくなるわけではありません。
でも皆さんは買い物の際、「同じ値段なら、賞味期限が長い物を買ったほうがおトク」と考えてはいないでしょうか。棚からいくつも商品を引き出して、賞味期限を見比べてはいませんか。しかしその結果、棚には賞味期限が迫った物が残り、やがて廃棄されることになります。
これに加え、日本の食品業界には「3分の1ルール」という不思議なルールがあります。これは賞味期限を1/3ずつに区切って、最初を「納品期限」、次を「販売期限」とする、いわゆる商慣習。
たとえば賞味期限が6ヵ月あるお菓子の場合、メーカーは製造から2ヵ月以内に小売店に納品しなければならず、過ぎたものは納品すらできません。さらに製造から4ヵ月経ったものは、期限が2ヵ月も残っているのに商品棚から撤去されてしまうのです。こういう商品に、値引きシールが貼られているのはよくあることで、ぜひ積極的に利用していただきたいと思っています。
もう一つ、賞味期限に関する誤解の多い商品に、ミネラルウォーターがあります。ペットボトル入りのものは、長期間保存しておくと容器から水が蒸発して、徐々に量が減っていきます。すると、表示した内容より少ない、と計量法違反となってしまうんですね。つまりペットボトルに記されている期限は量が担保できる期限であって、水が劣化して飲めなくなるという意味ではないのです。
でも19年の台風19号の際には、被災者に期限切れの飲料水が配られた、と苦情が寄せられました。また、16年に地震のあった熊本では、いまだ大量のミネラルウォーターが保管場所に山積みになっていると言います。飲料として使えないからと、手足を洗うのに使われたとも聞きました。
期限について正しい理解があれば、まだ食べられる物を捨てずにすみます。講演会で、「棚の手前から、商品を取るようにしましょう」とお話ししたら、ひとり暮らしだという70代の女性が、「手前から牛乳を取ってたら、腐らせちゃうんだよ」と怒ったようにおっしゃいました。でも、コップ1杯(200mL)の牛乳を毎日飲むなら、1Lパックを買う時に5日分の賞味期限があればいい。
買い物に行ける日が限られていたり、スーパーが遠かったり、事情はあるかもしれませんが、買うサイズを一回り小さいものに換え、飲み終わったら買いに行くようにすれば、ムダは減らせると思います。