犯罪は常に社会の映し鏡
青木 犯罪は常に社会の映し鏡という側面を持ちます。僕は上田美由紀の鳥取連続不審死事件(平成16〜21年)を取材して『誘蛾灯』という本を書きました。小柄で肥満、5人の子どもを抱える地方のスナックホステスの美由紀に貢いでいた男たちが次々と不審死を遂げている。あの事件にも、過疎化していく地方の実態などを含め、時代と社会の匂いを色濃く感じさせる要素がありました。
森 同時期に似たような事件で木嶋佳苗の首都圏連続不審死事件(平成19〜21年)があって、そちらのほうが世間の注目度は高かった。なぜ青木さんは上田の事件のほうを取材しようと思ったのですか。
青木 単にへそ曲がりだからですよ(笑)。また、ある雑誌の編集者に「木嶋佳苗は別の書き手に依頼したので、青木さんは上田美由紀の事件をやりませんか」と声をかけられたのも大きかった。木嶋の事件にメディアが狂奔するのを冷ややかに眺めていたので、へそ曲がりの僕はむしろ鳥取の事件を積極的に引き受けた。実際に取材を始めてみると、山陰という場所を含めたいろいろな社会的、時代的背景が浮かび上がってきて、かなり夢中になって取材しました。
森 わかります。そういうことはありますね。最初それほど思い入れがなくても、調べ始めると引き込まれる事件というのが。
青木 首都圏から遠く離れた場所の事件ということもあってメディアはあまり注目しませんでしたが、騙された男も鳥取のほうが興味深かった。木嶋は婚活中の中年や高齢者を騙したとされていますが、上田には新聞記者や県警捜査二課の警察官までが吸い寄せられ、命を落としている。
森 確かにそれはすごい。上田に特別な魅力は感じましたか?
青木 何回か面会しましたけれど、魅力は一切感じませんでした。「なぜこの女性に次々と男が?」と思うばかりで。結局その答えは出ませんでしたが、過疎化する地方都市や騙された男たちの心象風景、生活状況を含め、非常に興味深い事件でした。
森 同じ女性でも、11(平成23)年に発覚した尼崎連続変死事件の角田美代子のように、力で支配する形の事件もありますね。
青木 尼崎の事件は、血縁関係のない相手と共同生活をしながら、マインドコントロールで複数の家族を乗っ取った、とされていますね。似たような監禁・殺害事件とされるものでは、96〜98(平成8〜10)年に北九州監禁殺人事件もありました。
森 角田美代子を取材したことはありませんが、報道で見る限りは、先に挙げた久留米看護師連続保険金殺人事件にもよく似ているなと思います。吉田純子というモンスターが、看護学校の同級生3人を恐怖で縛って従わせる。自分のバックには暴力団とか政治家の大先生がついていると、つまらない嘘をついてね。でも恐怖で支配されるほうは思考が停止してしまい逆らえなくなる。そうした構図が時として犯罪集団を作り上げることがあるのですね。
・ オウム真理教事件
・ 東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件
・ 光市母子殺害事件
・ 秋葉原通り魔事件
・ 相模原障がい者施設殺傷事件