平成の30年を振り返ると、数多くの忘れがたい事件がありました。昭和から平成に移った頃より現場で取材をしてきたジャーナリスト同士の対談、後編です。

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女性が主犯となった事件が目立った1990年代後半

 90年代の中盤から後半にかけては、女性が主犯となった事件も目立った気がします。取材した中でも印象的だったのは、平成10(1998)年に起きた和歌山毒物カレー事件

青木 夏祭りで提供されたカレーにヒ素が混入され、4人が亡くなった事件ですね。林眞須美の死刑は確定しましたが、具体的な犯行の動機などはまだわかっていません。僕は直接取材をしていないからわからないのですが、カレー事件の場合は眞須美本人がいまなお冤罪を訴えていますね。確かに、彼女はもともと保険金詐欺を繰り返していたような人間なのに、あのカレー事件は何の得にもならない。怨恨の線についてもよくわかりません。

 今は鑑定の精度が上がっているとはいえ、やはり毒物事件というのは立証が難しいんです。

青木 女性による毒物事件とされるものでは、12(平成24)年から13(平成25)年にかけて京都、大阪、兵庫で起きたとされる筧(かけい)千佐子による青酸連続死事件、いわゆる“後妻業”事件も大きな話題になりました。

 立件されている事件の被害者は3人だけですが、実際はもっとやっていると見られている。この事件は資産家の高齢者を狙う詐欺的犯罪が、最終的に殺人に至ったもの。つまり、日本の超高齢社会をある意味で象徴している事件という見方もできます。

青木 確かにそういう面はあります。

 筧の事件を予言したかのような『後妻業』という小説を書いた作家の黒川博行さんと本の出版当時に対談したのですが、黒川さんも「ああいう女性は世の中に山ほどいる」とおっしゃっていました。ただ殺していないというだけでね。それは僕も取材をしていて感じました。高齢の男性はどうしても、女性に優しくされると頼ってしまうね。

青木 高齢者を利用した詐欺という意味では、森さんが最近出版された『地面師』に出てくる積水ハウス事件をはじめとする不動産詐欺事件にも一脈相通じる部分がありますね。

 そうですね。地主が高齢化して施設に入ったり亡くなったりしているのをいいことに、身代わりを立てて地主になりすまし、土地を騙し取る。いずれの事件も超高齢社会がその背景にあります。