池田 アントワネットがフェルゼンと道ならぬ恋に落ちるつらい気持ちが、「大人になってやっとわかった」という感想も多かったですよ。
林 ツヴァイクの『マリー・アントワネット』を読むと、「あんなことをしなければ、こういうことにはならなかったのに」ということの連続なんですよね、アントワネットって人は。
池田 彼女はそもそも、一国の王妃になるように育てられた人ではないんですよ。突然お鉢が回ってきちゃっただけで。
林 最初はあどけなかったアントワネットが、作品が進むうちにどんどん成長し、大人の知恵と憂愁を身につけていくでしょう。でもその頃には時すでに遅し、というのが切なくて。
池田 私、自分が37歳になった時、「アントワネットが処刑されたのはこんなに若い時だったんだ」と、すごく胸が痛みました。
林 フェルゼンがまた、イケメンすぎるのがいけない!(笑)
池田 彼はスウェーデンでは大元帥という、国王に次ぐくらい偉い人。なのにアントワネットとの約束を守って、生涯結婚しなかった。20代の熱情で口走った約束を一生守れる男の人って、そういないでしょう。その意味でもフェルゼンってすごいなと、最近になって思います。
林 夫のルイ16世は、どう?
池田 妻が自分よりかっこいい男に憧れているのを知っても、嫉妬するわけでもなく受け入れる。当時は少し情けない男性として描いてしまったけれど、今はむしろかっこいいと思います。