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いつまでも長生きしてほしい。しかし、親が長生きすればするほど、支える側の子どもも年をとるという現実がある。終わりの見えない長期介護のなかで、思いもよらない事態に見舞われた人たちを取材した。ハルコさん夫婦は、介護保険を活用しながら、義母の介護をうまく乗り切ってきたと思っていた矢先――(取材・文=島内晴美)

在宅介護は難しいだろうと言われて

認知症を患いながらも都内のマンションで一人暮らしをしていた義母(90歳)が脳幹出血で倒れた。車で30分ほどのところに住むハルコさん夫婦(60歳・夫63歳)は、介護保険を活用しながら介護をうまく乗り切ってきたと自負していただけに、こればかりは想定外だったという。

「救急搬送された病院で、一人息子である夫は、医師に最大限の救命、延命措置をとってほしいとお願いしました。そのかいあって、義母は一命をとりとめましたが、意識は戻りませんでした」

月15万円ほどの義母の遺族年金では生活が成り立たず、貯蓄を取り崩して暮らしてきたが、一日2万5000円の個室に2ヵ月入院し、貯金は底をついたという。それでも、容態が安定すると退院しなければならない。そのためには、胃ろう(管を通して直接胃に栄養剤を注入する)の造設が不可欠。しかし、意識不明で胃ろうとなると、在宅介護は難しいだろうというのが病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)の意見でもあった。

「MSWに相談しながら、退院後の行き先を探す日々が始まりました。都内の療養病院は個室しか空きがなく、室料は1日2万円。一番安かったのが、民間の介護付き有料老人ホームでした。それでも、都内では高すぎて、自宅から離れた近県の施設を探すことになりました」

個室代を月60万円払って療養病院に入り、安い病床が空くのを待つか、利用料は月25万円だが、入居時に数百万円の一時金が必要な有料老人ホームにするか、選択を迫られハルコさん夫婦は悩んだという。

「なんでもお金次第なんだなあと思いました。夫は60歳でとりあえず1回目の退職時期を迎え、退職金が1000万円ほどありましたから、有料老人ホームへの入所を決めました。入居金500万円と、布団やベッドなど入居に必要な費用がざっと100万円ほどかかりましたが、何とか入居させることができました」