書くことについて
久保 ひゃっくん、最近けっこう旅行に行ってない?
ヒャダ 旅行、めっちゃ行ってます。
久保 そういう旅行の体験って、語ったり書いたりしてアウトプットしてる?
ヒャダ 最近まで旅行の連載をやってて(*)、そこで書いてはいたんですけど、それくらいですね。でも一人旅だったらけっこう時間あるんで、暇つぶしがてら飛行機の時間を使って書くことはありますよ。文字書くの嫌いじゃないし、書いてたら時間がつぶれるんで、リマインダーとしてもぺらぺら書いてますね。
*JAF MATE Onlineで2025年3月まで連載されていた「神出鬼没! ヒャダインの適当旅」。
能町 私、書かなくなっちゃったなー。日記も5年くらいやってたのに、途絶えてしまいました。
ヒャダ 後で書こうと思うと良くないんですよね。明日同じことを思ってると思ったら思ってないわけで。
能町 そうなんですよ。その日に書いたほうがいいんですよ。
久保 私も全然、言葉を残せなくて。だから今日の舞台は(喜劇の台本を書いて)久しぶりに文字を残したなって感じ。あんなもんですいませんが。
──久しぶりに書き物をしてみて、どうでした?
久保 散歩をしながらアイデアをずっと練ってたんですけど、「最初に思ってた形よりもこっちの方がいいかな」とか、もやもや考えてたら時間がなくなってきて、今日の台本は実は今朝の5時に書き始めたんですよ。
一同 えーーーっ!
久保 朝から書き始めて、フジテレビに向かうタクシーの中でも書いて、到着してメイクが終わった頃にやっと完成したって感じで。本当はマチネ(昼公演)にやるつもりだったのが、台本を基にすり合わせをしなきゃいけないからソワレ(夜公演)になったんですけど。ギリギリで申し訳なかったね。
──そういうのって、本当は余裕をもってコツコツ書いていればいいんでしょうけど、でも「書くときは一気に書かないと」みたいなところないですか? 僕が文章書くときも、推敲は後日に回してもいいけど、原型となるものはその日のうちに全部書き切ってしまわないと、という感覚があって。「明日になったら違う感覚の自分になっているかもしれない」という恐怖があるんですよ。
ヒャダ まさしく。僕もそれはあります。
久保 私もそれはある。
能町 そうなんだ。
久保 「書く波を早めにつかまないと、次につかむときはもう最初のペースではつかめない」という感覚がめっちゃあるんですよね。だからそんな感じで、書くのを諦めちゃうことがいっぱいあるんですけど、でも諦めずにもう一度つかみ直すことをやんないといけないと思ってて。やっぱり書こうと思った最初の段階で、なにかしら形にした方が本当はいいですよね。
──久保さんの「豪族の娘」シリーズは、今日の喜劇もそうですけど、あとさき考えずに好奇心だけで「これをやってみたい」 をそのまま実行してるのがいいなと思いますよ。初期衝動のクリエイションというか。
久保 それはありますね。でも最初に考えてたやつはもうちょっと違ってて、もっとSFチックな「私の星では抹茶がないのよ」みたいな感じの、センチメンタルな話を考えたんです(*)。
*何のことだかわからないと思いますが、実際にもとの舞台を見ててもわからない人はいたので、とりあえず「そうなんだ」くらいの気持ちで読み進めてください。
能町 どこから抹茶が出てくるの(笑)。
久保 私がYouTubeで、「しらべてみたら」(*)をずーっと無限に見てたんですよ。そこに「外国人が日本に来て買ったもの」のシリーズがあって。
*「FNNプライムオンライン」の1コーナー。
能町 思いっきりそれがベースなんですね。
久保 そう。そこに抹茶商品を大量に買っているスペイン人がいて、「スペインに帰ったら抹茶を毎朝飲むようになるよ」とか言ってて(*)。
*「外国人が絶賛!ドンキ&ダイソーの意外な人気商品【しらべてみたら】」
ヒャダ 男役も女役も全部、久保さんがアテレコしたじゃないですか。どっちのセリフなのか(役を演じている)僕らがわからないから、見てるお客さんはいよいよわかんないですよね(笑)。
能町 いきなりやるにはハードルが高い台本だったんですよ。
──なんとなくわかってきました。テレビでよく見る「インタビューした外国人のセリフを、いかにもな感じの口調で吹き替えするやつ」をやりたかったんですよね。
久保 そう。アテレコとナレーションをやってる人がそれぞれいて、それの練習をしていたら時空が歪んで、ナレーションを付けて映像の世界と実際に話している人の世界が交流しちゃって……っていう。私のイメージだけど、舞台ってそういう感じのもの多くないですか?
──「現実の世界」と「それを俯瞰して見てる世界」がクロスすることはありますけど……。
ヒャダ でも普通はそれをわかりやすいように、シーンを積み重ねていったり……。
久保 本当はしなきゃいけなかったんだけど、まあそこが限界だった(笑)。
ヒャダ でもよくやったと思います。久保さんが指示出しをしている段階で、僕らがルパン三世だと先にバレてしまう展開になりましたけど(笑)。
能町 あれは斬新でした(*)。
*突然「おいら、ルパ〜ン三世」「おいらも、ルパ〜ン三世」と言い出す場面があった。
久保 ルパン三世のくだりは、私が初めてナイロン100℃の舞台を見たときにやってたネタなんですよ。なんでここでルパン三世が出てくるのかまったくわかんないけど、舞台に立ってる人が次々に「おいら、ルパ〜ン三世」をやっていくという。見ててゲラゲラ笑ったんだけど、あれは面白いかどうかじゃなくて、心意気を試すって感じ。
能町 いろんな舞台をやってきた熟練者がたどり着いた境地を、久保さんは今日いきなり……。
久保 ごめん(笑)! でもそこも含めて、「もっとたどたどしいものを見せていいかな」くらいに思ってたんですよ。
能町 いや、でも面白かったですよ。
──久保さんの意図とは違うでしょうけど、能町さんもヒャダインさんも久保さんのアテレコを聞いてから動くので、セリフと動きが0.5秒くらいズレてて、往年のミスターマッスル(*)みたいで面白かったですよ。
*「笑っていいとも!」に出演していたイラン出身のボディビルダー。本人は声を一切出さず、アテレコにアドリブで動きを合わせてタモリとコミュニケーションを取っていた。
久保 もし私が「舞台もののショート作品を書いてくれ」と言われてたら全然書けなかったと思う。でもそこを「舞台の明転・暗転をやりたい」と「『しらべてみたら』が好きだ」という気持ちだけで突破できたので、その突破力は大事だなと思った。
能町 すごい突破力でした。
ヒャダ ほかの人にはできません。
──だからそのへんは恐れずひるまず突っ走ってほしいです。
久保 いや、でももう次はね……。
能町 さっき「瀕死の人を抱いて歌いたい」って言ってなかった(笑)?

【書籍情報】
「久保みねヒャダこじらせブロス」時代の連載が書籍化!
(通常版はこちら↓)
久保ミツロウ・能町みね子・ヒャダイン
「カウンセリングするつもりじゃなかった~久保みねヒャダこじらせ雑談~」(扶桑社)
通常版:2,200円
(限定版はこちら↓)
限定付録付き特別定価版:3,080円(「こじらせ日めくり格言」付き)
漫画、文筆業、音楽と、それぞれのジャンルで活躍中の3人。そんな中年期を迎えた3人が、依存症、ネット、創作活動、コミュニケーション、結婚、死生観……などなど、時事ニュースや人生の諸問題、たわいのない日々の悩みについて語り合います。
ただの雑談が、いつの間にかお互いのカウンセリングになってしまっている⁉
きっと誰かに話したくなるネタが詰まった一冊です。
【ライブ情報】
『久保みねヒャダこじらせライブ』
開催日:2025年8月23日(土)
会場:お台場特設会場(フジテレビ湾岸スタジオ内)
昼公演:13:00開演/【ゲスト】藤井隆
夜公演:17:00開演/【ゲスト】千葉雄大
チケット情報の詳細は番組HPを参照。
【番組情報】
ほぼ隔週で放送中
『久保みねヒャダこじらせナイト』
次回放送:8月9日(土)フジテレビ●深3:15〜3:45
ゲスト:「はやく起きた朝は…」松居直美、磯野貴理子、森尾由美