自分も涙を流す側に

めぐるに追い打ちを掛けたのは偶然耳にしてしまった両親の会話だった。母親の藍沢塔子(内田有紀)はこう言った。「私なんか、考えちゃうのよね。もしも、めぐるの中学受験にかかったお金、ぜーんぶ投資に回していたら・・・」。父親の進(要潤)も「オレもちょっと考えた」と同調した。

おそらくは軽口だ。しかし、言われた側はそう思わない。めぐるは深く傷ついた。2度と両親に余計な金銭的負担を掛けるものかと考えている。

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内申点のためにかるた部に入ったこと、投資をしていることと両親の言葉は結び付く。子供に悔いのない青春時代を送らせるためには、両親の最低限の気遣いが欠かせないことが分かる。単に高校生たちがかるたに興じる物語ではない。

めぐるは置かれた環境のせいで効率と損得ばかりを考えてきた。かるた部も結局は損だと判断し、辞めてしまう。

ところが、かるたのことが頭から離れない。数合わせで参加させられた「かるた選手権東京都予選」で涙を見たからだ。

かるたは3人で1チーム。各校のチームは早々と負けようが、上位まで進出しようが、みんな肩を抱き合って泣いた。めぐるはその理由が知りたかった。

「涙があまりにもきれいで」(めぐる)

この辺は王道の青春ドラマである。めぐるは口にはしなかったが、自分も涙を流す側になってみたくなったのだ。

たった1人のかるた部員だった2年生・与野草太(山時聡真)が違う大会で上位に進出し、本人も大江も会心の表情を見せたあと、めぐるは再入部する。

同時に入部したのは村田千江莉(嵐莉菜)。やはり2年生。幼いころから野球一筋で、投手だったが、つい最近野球部を辞めた。退部の理由は分からない。

いつも千江莉と一緒に行動する2年生・奥山春馬(高村佳偉人)も同時に野球部を退部し、かるた部に入った。しかし千江莉が野球を辞めた理由は知らなかった。

千江莉は春馬に「野球、飽きた」と言った。だが、春馬には本当のこととは思えなかった。千江莉はずっと脇目も振らずに野球に打ち込んできたからだ。

幼いころから千江莉の捕手を務め、梅園高に一緒に入った永島優樹(山崎雄大)との約束もあった。2人で甲子園の土を踏もうと誓っていた。

女性は甲子園に出られないが、いずれルールが変わり、男女問わず出場できるようになると千江莉は信じていた。男女同権なのだから、そう思う10代がいてもおかしくはない。

だが、ルールはそのまま。もっと切実な問題も生じた。男性部員との体力差が開く一方だったことだ。監督から「マネージャーになってくれ」と告げられた。けれど、千江莉がやりたかったのは野球であり、マネージャーではない。退部は当然の選択だった。

千江莉が退部の真相を明かしたら、永島も一緒に辞めてしまう。だが、永島はレギュラー捕手に手が届きそうだった。千江莉は永島の未来を潰したくなかった。だから黙って野球から離れた。