『短篇集ダブル サイドA、サイドB』パク・ミンギュ・著/斎藤真理子・訳

 

弱者への励ましが根底に流れる全17篇

第1回日本翻訳大賞を受賞した短篇集『カステラ』以来、韓国文学の素晴らしい紹介者・斎藤真理子によって、多くの作品が訳出されているのがパク・ミンギュ。そのストーリーテラーとしての才能を存分に味わえるのが、LPレコード盤を模した『短篇集ダブル』サイドAとサイドBの2冊なのだ。

40代独身のまま肝臓ガン末期の宣告を受けた男が、幼なじみらと埋めたタイムカプセルを掘り返し、故郷で旧交を温める「近所」や、がむしゃらに働き、引退後は認知症の妻の介護をしている男が、妻を連れて最後の贅沢を楽しむ旅に出る「黄色い河に一そうの舟」といったリアリズム小説。

2387年に起きた大地震によって生まれた2万メートル近い海溝にもぐるためのプロジェクトを描いた「深」などのSF。望楼から出ていけない2人の男による暗黒版“ゴドーを待ちながら”「羊を創ったあの方が、君を創ったその方か?」や、紀元前一万七千年、雪と氷に閉ざされた地で餓死寸前の妻と赤ん坊のために必死で獲物を探す男の話「膝」のような寓意譚。かと思えば、人類を平等に憎み、小さな子供まで殺すのを躊躇しないサイコに囚われた男の恐怖体験を描いた「ルディ」のような超常ホラーまで、さまざまに異なる意匠をまとった17篇が収録されている。

根底に流れているのは、この世からハミ出たり排除されてしまった人、生きるのが苦しい人といった、世間から負け組、弱者とされている人間に対する温かな気持ちであり、励ましであり、共感だ。

読んで無類に面白かったり、破天荒だったりする多種多様な物語の中に、そんな人情のようなものを感じさせる。パク・ミンギュの真骨頂が堪能できる2冊なのだ。

『短篇集ダブル サイドA、サイドB』
著◎パク・ミンギュ
訳◎斎藤真理子
筑摩書房 各1700円