戦後の悲しみも

戦争が終わって物語のトーンは明るくなりましたが、戦後の悲しみもしっかり描かれていると思っています。食料がないのでご飯が質素ですし、戦災孤児や浮浪児が一つのキーになっている。闇市でのぶが買ったお芋が盗まれたり、盗んだ芋を子どもたちが分け合ったり。戦時中とはまた違った辛さが描かれていると感じました。

のぶは戦時中に教師だったこともあって、子どもたちに特別な思いがある。やなせさんは食べ物がない状態がもたらす苦しさや辛さをおっしゃっていました。『あんぱん』は飢えの辛さが描かれているからこそ、食事の幸せもすごく感じています。

(『あんぱん』/(c)NHK) 

<のぶは、高知新報で記者として働き始めた。史実では、やなせさんと妻の暢さんは高知新報で出会う。『あんぱん』でも嵩が高知新報に入社するが、のぶは高知出身の代議士・薪鉄子(戸田恵子)から引き抜かれ、上京。東京の鉄子の事務所で働くことになった>

鉄子先生は嵐のような人です。のぶ以上のハチキン(土佐言葉で快活な女性)で愛情深い女性だと感じています。高知新報からのぶを引き抜いて東京へ導いてくれました。そのパワフルさによって物語に新たな風が吹きます。

演じている戸田さんもパワフルな方です。鉄子はせりふ量が多くてしかも土佐弁。私は最初のころの撮影では、頭で方言を考えながら演じてしまい、芝居とせりふがずれてしまったことがありました。戸田さんはそんなこともなくて、どうやって演じているんだろうと思っています。

<幼い頃に出会った嵩とのぶは、物語も折り返し地点を過ぎた第85回でようやくお互いの思いを伝えあった>

のぶと嵩は戦争中、環境の違いもあって、すれちがってきました。でも、戦争を乗り越えた後に2人は「逆転しない正義を探したい」と考えるようになりましたし、通じるものがたくさんある。

小さい時に出会ってから、喧嘩やのぶの結婚などいろいろありましたから、2人の思いが通じた時には、「やっと嵩と結ばれた」と思いました。かつて、嵩の伯父の寛先生が「いつか2人の道が交わる」とのぶに伝えてくれていましたが、嵩とのぶがお互いにやりたい道をしっかり進んだ先に結ばれたと思っています。

嵩が東京に行ったり、戦争に行ったりと、なんだかんだこれまで2人の距離は遠かった。のぶは小さい時から嵩の絵が好きですし、やっと嵩のそばで見守ることができるのがうれしいです。