不条理な世界の愛おしい物語
KAAT神奈川芸術劇場の芸術監督・白井晃が、2018年上演の『バリーターク』に続き、アイルランド出身の現代作家エンダ・ウォルシュの作品に挑戦する。『バリーターク』を演出して「その不条理かつ摩訶不思議な世界」に魅了された彼が上演を熱望。ウォルシュの16年発表作の、日本初演だ。白井は20年度で芸術監督の職を退く。海外作品、とりわけ同時代作家の作品の上演で実績を残してきた彼にとって、今作はその集大成になるだろう。
物語の舞台は、時も場所もわからない、密閉された待合室。若い女アイーラはそこで自分の番号が呼ばれるのを待っている。隣の部屋では、若い男がモニター越しに彼女を見守っている。壁を隔てて、ふたりの心がしだいに揺れ動く。やがてアイーラの番号がきたとき、男はある決断を下す。それは……。
主人公アイーラには、昨年上演の白井演出作品『恐るべき子供たち』での清新な演技が印象的だった南沢奈央。『罪と罰』(フィリップ・ブリーン演出)での主人公の妹役も素晴らしかった。若い男は、ドラマ『今日から俺は!!』で注目された若手、平埜生成(ひらのきなり)が演じる。19年の舞台『常陸坊海尊』(長塚圭史演出)や『日野浦姫物語』(鵜山仁演出)で存在感を発揮していた。さらにダンサー・振付家の入手杏奈が、重要な役割で出演する。
「人間存在の不確かさに対する不安と、その恐れに対する優しいまなざし……孤立主義、全体主義の風潮が蔓延する中、人々は異質なものを排除しようとする。監視者と被監視者のいる部屋は、まるで現代社会を投影するかのようだ。そんな世界に生まれた小さなラブ・ストーリーに、私は切なくも、この上ない愛おしさを覚える」。白井は作品の魅力についてこう語る。
東京オリンピック目前の熱狂と、一方で渦巻く社会不安。そんな日本で、この作品が上演される意味は、きっと大きい。
ウォルシュいわく、この作品は「人間の魂と、耐える力への頌歌(しょうか)」。その頌歌を、白井がどう描くのか、出演者がどう肉体化するのか。息づかいまで感じられる小規模空間での“小さな美しい物語”を、慈しみたい。
アーリントン〔ラブ・ストーリー〕
4月11日〜5月3日/神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉
作/エンダ・ウォルシュ 翻訳/小宮山智津子 演出/白井晃
出演/南沢奈央、平埜生成、入手杏奈
TEL 0570・015・415(チケットかながわ)
※本公演は全公演中止が決定されています
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草なぎの自然体で優しい魅力
草なぎ剛主演のハートウォーミングなコメディが、昨年の京都に続き東京で上演される。広告界の俊英2人が本業の傍ら長年続ける劇団「満劇」の短編2作を、草なぎ版としてバージョンアップした公演だ。
第1話で草なぎが演じるのは、なんと犬。別れそうになった夫婦が飼い犬をどちらが引き取るかでもめるが、最後はめでたしめでたし。犬は人間の言葉はわからないが、夫婦の幸せを願っている。
第2話では、妻(小西真奈美)を笑わせるのが生きがいの夫に。しかし妻は事故に遭って、笑うと記憶をなくすようになってしまい……。
舞台ではハードな役柄が続いていた草なぎが、自然体で優しい魅力を見せる。
家族のはなし PART1
4月24日〜5月6日/東京・東京建物 Brillia HALL
作・演出/〈第1話 わからない言葉〉淀川フーヨーハイ
〈第2話 笑って忘れて〉あべの金欠
出演/草なぎ剛、小西真奈美、畠中洋、小林きな子、片桐仁
TEL 03・6206・1820(家族のはなし公演事務局)
※本公演は全公演中止が決定されています
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3人の盗人の因果を描いた人気演目
木ノ下裕一の綿密な補綴(ほてつ)のもと、現代における歌舞伎演目上演の可能性を追求する木ノ下歌舞伎。その代表作が、スケールアップして東京芸術劇場のプレイハウスに登場する。
2014年京都で初演、15年に東京芸術劇場のシアターウエストで上演され、高く評価された作品だ。省かれがちな場面も含めた通し上演で5時間超になるが、杉原邦生の緩急自在な演出が長さを感じさせないだろう。
内田朝陽、大鶴佐助、千葉冴太、山田由梨、みのすけ、村上淳らが出演。幕末の動乱期に生まれた、「吉三」という名を持つ3人の盗人の因果を描いた人気演目が、群像劇として現代に蘇る。
三人吉三
5月30日〜6月1日、6月4〜7日/東京・東京芸術劇場 プレイハウス
作/河竹黙阿弥 監修・補綴/木ノ下裕一 演出・美術/杉原邦生
出演/内田朝陽、大鶴佐助、千葉冴太、山田由梨、小日向星一、山㟢果倫、緑川史絵、森田真和、田中佑弥、高山のえみ、武谷公雄、みのすけ、篠山輝信、緒川たまき、村上淳
TEL 0570・010・296(東京芸術劇場ボックスオフィス) ※松本公演あり
※上演期間は変更の可能性があります。最新の情報は、各問い合わせ先にご確認ください