社内に飾ってあった、八木が子どもたちを抱きしめるイラストを見つめた蘭子。たかしが描いたものだ。
「子どもたちにプレゼントを渡す時に、いつもあんな風に抱きしめてあげるんですか」と尋ねる。八木は、「この世のなかで、子供たちが生きていくのに必要なのは、まずは栄養のある食べ物、すまい、そして、音楽に物語に詩」と返す。
蘭子は「精神の栄養ですね。つらいことがあってもそれがあれば乗り越えられます」。
「もう1つ必要なのは、人の体温だ」と告げる八木。「あの子たちは親から無条件に与えられるぬくもりを知らない」と続ける。
蘭子が「八木さんはこれまで何百人という子どもたちを抱きしめてきたんですね」と話すと、「そういうことになるかな」と八木。
「そういう八木さんを、誰か。抱きしめてくれる人…」と蘭子がつぶやくと、
八木は「いや、おれは…」と言葉に詰まる。
蘭子は「すみません、失礼なこと聞いて」と出ていって――。