聖地巡礼へ

イメージ(写真提供:Photo AC)

平日の18時。到着した店は「こりゃ近所にあったら通うよね」と言いたくなる、ご夫婦で経営されているごく普通の居酒屋だった。仕事や食事でよく行く地域だけど、こんな店があったのかと足を踏み入れると、カウンター席、その向こうに小上がりの座敷があった。私たちはあらかじめ予約をした小瀧くんが座ったところに着席。ここから推し活を全くしていない私にとって、小さな衝撃が続いていく。

まずはカウンター席が、常にファンの女性で満席になっていた。平日にもかかわらず回転率も良く、中にはあきらかに常連客になっている女性もいた。動画配信から1年足らずで経営者のご夫婦と、他の常連客のハートをキャッチしているなんて、すごいコミュニケーション能力だ。ただ、単なる常連客に留まらず、おそらく推しを象った小さなぬいぐるみをテーブルに置いているのは、ファンとしての矜恃だろうか。

「せっかく浜松(地元)から来たんだから、店員さんに何か聞きなよ」
「え〜……、聞けないよ〜」

こういう時に私が20代から培ってきた取材力が役立つ。店の奥さまに聞くと小瀧くんの来店以降、来店客=ファンが絶えないそう。皆、おかしな態度を取らず、居座らず、いい子たちばかりだとか。

「ありがたい話ですよねえ」

確かに。このあたりは家賃も高いし、競合店も多い。けして単価も高くなく、SNSで積極的に宣伝をしているネオ系の居酒屋でもない。それがたった一人の王子の来店によって、思いがけず店に若い女性客が集まるようになった。まさに風が吹けば桶屋が儲かる、だ。