日常を大切にした人
<戦争を真正面から描く一方で、日常の大切さも丁寧に紡がれてきた。最終回、夫婦2人で自宅で語り合うシーンでは途中から音楽が消え、2人の芝居をじっくりと見せる演出が印象的だった>
やなせさんは、戦争で壮絶な体験をしてきたからこそ、もしくは作り手だからこそ、日常を大切にしているように思います。自宅での夫婦のシーンは10分弱あります。実はこのシーンが、今田さんと北村さんのクランクアップでした。朝ドラの場合、クランクアップ間近のシーンの撮影では、いろんな人が現場に来ますし、「これでおしまい」だというお祭り騒ぎになるんです。2人とも、緊張感を保つのが大変だったと思いますよ。
この夫婦2人で語り合うシーンは、カメラ3台を据えて、カットをかけずにワンロールで芝居をしてもらいました。お芝居を止めずに10分演じて、1発でOKでした。緊張感があるなかでよくやりとげてくれたと思います。
画面からも何か独特の緊張感が伝わってきました。今田さんと北村さんが1年間のぶと嵩を演じてきて、心の片隅には「これでおしまいか」とか、いろんな思いがよぎっていたと思います。お二人が感じていたいろんな思いと、その瞬間にのぶと嵩として演じたお芝居の緊張感がない交ぜになって、いわく言い難い虚実まざりあったようなシーンになりました。
最初は音楽をつけて編集したんですが、のぶと嵩の独特の緊張感に勝る音楽がなくて、音響効果の人と相談して音楽を外しました。戦争パートでは暴力的な場面など視聴者が見ていてつらい場面もあったと思いますが、つらい場面であっても視聴者の人は信じて観てくださいました。この最終回のおニ人のおよそ10分にわたるお芝居もちゃんと観てもらえると信じています。