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「結婚を決めたのは、彼が自分の姓の下に私の名前を書いて、続柄に『妻』と書いた入院手術の連帯保証書の下書きを見せたときです。半分冗談めかしていたけれど、彼の本音が見えたようで切なかったですね」

マナミさんは、離婚後も旧姓に戻さず元夫の姓のままにしていた。というのも、手続きが煩わしかったからだ。マコトさんにマナミさんの元夫の姓を名乗らせるわけにもいかず、マナミさんが再び姓を変えることになるのも仕方なかった。

「慌てて婚姻届を出して、あちこちで手続きしながらの看病は疲れましたが、何とか力になりたい一心でした」

手術が無事終わって小康状態にあったころ、知り合いから「遺影撮影会」の案内を受けた。プロのカメラマンによるスタジオでのポートレート撮影だという。マナミさん自身は終活に興味があったので、撮影に参加したいと思ったが、死を意識しているだろうマコトさんにはリアルすぎると、マナミさんは誘うのを躊躇した。

「ところが話してみると彼はノリノリで、めったにない機会だから2人で参加しようと言い出したんです。たしかに、初めて経験するスタジオ撮影は刺激的でした」

2人を含めて参加者は5人。本格的なライティングとプロによるメイク、カメラマンの指示で順番にポーズをとっていると、気分も上がってくる。

「シャイな彼が、カメラの前でポーズを決めたり笑顔を見せたりしているので、涙が出そうになりました。私たちが新婚だと知ったカメラマンさんが、ツーショット写真を撮ってくれたんです。遺影撮影会でツーショットを撮るなんて、なかなかないですよね。私たちにとっては、まるでウェディングフォト(笑)。何より、出来上がりを見たとき彼が心底うれしそうで、撮ってよかったです」