韓国の女性監督、鮮烈なデビューを飾る
1994年のソウル。中学2年の少女ウニは、大規模集合住宅に暮らしている。冒頭、外出から戻った彼女は玄関チャイムを何度も鳴らすが、応答がない。ドアを叩いても、「お母さん!ふざけないで!」と叫んでも、静寂のままだ。階を間違えただけのようだが、その取り乱し方が観客の心をざわつかせる。小さな餅屋を営む両親と、高校生の姉、中学生の兄の5人家族。両親は仕事に追われているし、姉は夜こっそり外出したりボーイフレンドを家に連れこんだり、好きに暮らしている。父親は優等生の長男に期待をかけているが、彼は勉強のストレスを妹にぶつけ、しばしばウニを殴りつける。
81年生まれのキム・ボラ監督の長編第1作は、自身の少女時代を色濃く反映させている。タイトルになっているハチドリは世界で最も小さな鳥のひとつ。小柄ながら羽を1秒間に約55回も羽ばたかせて長く飛び続けるという。
『82年生まれ、キム・ジヨン』など、出版界では韓国の女性作家が世界的に注目されているが、映画界でも女性監督の活躍が目覚ましい。例えば、82年生まれのユン・ガウン監督の『わたしたち』(2016年)は、小学生の女の子たちの友情や裏切りを繊細に描き出した。この作品を企画した名匠イ・チャンドン監督は、少女時代にフランスに養子に出されたウニー・ルコント監督の自伝的作品『冬の小鳥』(09年)や、1980年生まれのチョン・ジュリ監督作『私の少女』(2014年)をプロデュースしている。いずれも、少女の複雑な心の動きを丁寧に描き出した佳作だ。
ウニは、漫画を描くことが好きで、学校にはなんとなく馴染めず、別の学校に通うジスクと仲良し。ボーイフレンドもいるし、下級生の女の子に慕われるなど、それなりに楽しく毎日を送っている。
漢文塾の新人女性教師ヨンジは独特の雰囲気を持ち、ウニはすぐさま心惹かれる。心が通じ合う聡明なヨンジとの対話は楽しく、ウニの視野は広がっていく。だが、ヨンジは唐突に姿を消してしまう。
親友ジスクとの決裂、下級生の心変わり、ボーイフレンドの裏切り、その母親の心ない言葉。14歳のウニは、今日は昨日と同じではなく、人は突然いなくなったり心変わりすることを、日々実感していく。漢江(ハンガン)にかかるソンス大橋の崩落という大惨事も起きる。猛スピードで発展する韓国社会のなかで必死に羽ばたき続けるウニ。その姿に、多くの観客はかつての自分を見つけ、愛しさで胸がいっぱいになるだろう。
韓国を代表する映画誌が選ぶ「19年公開の韓国映画ベスト10」で、『パラサイト 半地下の家族』に次いで第2位を獲得したのも納得の、力作だ。
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監督・脚本/キム・ボラ
出演/パク・ジフ、キム・セビョク、イ・スンヨン、チョン・インギ、パク・スヨン
上映時間/2時間18分 韓国・アメリカ合作
■初夏、ユーロスペースほかにて公開
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差別や保守的な父の考え方に立ち向かって
イギリスの小さな町に暮らすパキスタン系の男子高校生は、1987年のある日、ロック歌手ブルース・スプリングスティーンの音楽を体験。彼の曲から、差別や保守的な父の考え方に立ち向かうパワーを得る。主演を務める期待の新星、ヴィヴェイク・カルラの麗しさが際立つ。
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監督・製作:グリンダ・チャーダ
近日ロードショー
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過去と現在、夢と現実が自在に交差する
長編第2作『ロングデイズ・ジャーニーこの夜の涯てへ』が2月に日本公開された中国の俊英ビー・ガン監督の長編第1作。貴州省凱里に暮らす中年男性は、ある目的のため旅に出る。過去と現在、夢と現実が自在に交差する圧倒的で斬新な映画体験が実に刺激的だ。
5月9日より全国順次公開
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監督・脚本:ビー・ガン
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