《ベスト・オブ・ジュディ・ガーランド》ジュディ・ガーランド

 

時を超えて豊かに光り輝く

2月9日に開催された第92回アカデミー賞授賞式で、『ハリエット』のシンシア・エリヴォや、『スキャンダル』のシャーリーズ・セロンをおさえて、見事『ジュディ 虹の彼方に』で主演女優賞を手にしたレネー・ゼルウィガー。彼女自身が歌っている同映画のサウンドトラックが発売されたので、今回はその盤を中心にした3枚を取り上げてみた。

レネーは、今から16年前の第76回アカデミー賞で、『コールドマウンテン』に出演して、助演女優賞を手に入れている人だけれど、本人はレネーではなく、「レネィ」と発音すると言っているので、私もレネィと書く。

映画『ジュディ 虹の彼方に』は、日本では3月6日に全国公開された、女優で歌手のジュディ・ガーランドの伝記映画だ。と言っても、ジュディの知名度は、アメリカやヨーロッパなどと日本では、天と地ほどの開きがある。この映画の中に出てくる、ジュディ・ガーランドの初主演作である『オズの魔法使』というファンタジー・ミュージカル映画がハリウッドで製作され、全米公開されたのは第二次世界大戦前の1939年8月。まだ私が3歳だった頃だ。

それが日本で公開されたのは残念ながら15年も経った54年の12月で、ジュディはすでにレネィの映画に出てくる3度目の結婚にも疲れ果てて、久々に出演した映画『スタア誕生』で鬼気迫る演技を見せてくれていた、30歳を超えた頃だったのだ。

だから、当時まだ16歳だったジュディが演じた少女ドロシーが、アメリカ中の子どもたちの憧れの的となり、ジュディが続けて『若草の頃』や『イースター・パレード』などに出演していた時代を日本人はほとんど知らない。

そこで、まずはアカデミー賞主演女優賞を取ったレネー・ゼルウィガーが歌う『ジュディ虹の彼方に』のオリジナル・サウンドトラックから聴いてみてほしい。

《「ジュディ 虹の彼方に」オリジナル・サウンド・トラック》レネー・ゼルウィガー
《「ジュディ 虹の彼方に」オリジナル・サウンド・トラック》
レネー・ゼルウィガー
ユニバーサル 2500円

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これをジュディ・ガーランドの歌として聴くか、映画『ベティ・サイズモア』や『シカゴ』で、2度にわたってゴールデングローブ賞ミュージカル・コメディ部門の主演女優賞を取ったベテランのミュージカル女優の歌として聴くかは微妙なところだが、どちらの耳で聴いても素晴らしいし、面白いあたりが、何よりも大したものだと感心してしまう。

今回、日本で同時発売された、洋楽史上で今も語りぐさとなっているジュディ・ガーランドの歴史に残るステージ、1961年4月のカーネギー・ホールでの歌唱と比べて、決して遜色はないし、ともすると同一人物ではないか?という錯覚さえ起こしかねない。

《ジュディ・アット・カーネギー・ホール》ジュディ・ガーランド
《ジュディ・アット・カーネギー・ホール》
ジュディ・ガーランド
ユニバーサル 2800円

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ジュディが亡くなってから、すでに51年。かなり古い私でも、娘のライザ・ミネリのステージは見ているけれど、さすがにジュディの生のステージに接することはできなかった。今こうして改めて映画や、カーネギー・ホールでの実況録音盤、そして今回紹介したいもう一枚の《ベスト・オブ・ジュディ・ガーランド》を聴いて思うことは、バーブラ・ストライサンドやダイアナ・ロス、ホイットニー・ヒューストン、マライア・キャリー以前に、こんなに素晴らしい女性歌手、ディーヴァ、そして優れたエンターテイナーが存在していたという目もくらむような、豊かな史実を知ったことへの感動なのだ。

ジュディのカーネギー・ホールでのライヴを録音した2枚組CD《ジュディ・アット・カーネギー・ホール》は、録音技術に今のクオリティはないけれど、舞台でのジュディの息遣いや、聴衆との絶妙なやり取り、溜め息しか出ない声の見事さと歌の上手さが素晴らしかった。さらに10代の頃のジュディが潑剌と光り輝く《ベスト・オブ・ジュディ・ガーランド》など、音楽の宝物として聴いてほしい。

《ベスト・オブ・ジュディ・ガーランド》ジュディ・ガーランド
《ベスト・オブ・ジュディ・ガーランド》
ジュディ・ガーランド
ユニバーサル 2000円