タエさんに頭が上がらない

――雨清水傳はどんな役ですか?

最初に台本を読んだときにタエさんが「傳」と呼び捨てだったので、あれ?夫婦役と聞いたのに?と思いました。タエさんの方が家柄が上なので呼び捨てで、傳はタエさんに頭が上がらないんですよね。奥さんといるときは江戸時代、仕事をしているときは明治時代の感覚です。

僕自身、若い頃に佐藤浩一さんの付き人をしていたことがあり、今お会いしても直立不動になってしまうんですよ。だから、最初に出会った時の関係性から態度を変えられない傳の気持ちはよくわかります。

(『ばけばけ』/(c)NHK)

雨清水家は上級武士でしたが傳は自ら髷(まげ)を切るような革新派でもあり、商売を始めて時代に乗っかっていこうと前向きに働いていたと思います。武士だった人がこれまでちょっとさげすんでいた商人になるのは相当勇気のいることだったはずですが、そうしないと生きていけなかったのでしょうね。

ただ、織物工場に部下のお嬢さんたちを呼び集めてノルマもなしに仕事をさせていたのはある種、救済のようなもので、商売人としては非常にぬるい考え方。その結果、世の中の激しい動きについていけず、タエさんに苦しい思いをさせてしまったと思います。

演じる上では松野家との違いを出すために、あまりはしゃぎすぎないようにしていました。傳は武士道というものを全く忘れた人ではない気がしますから、どこかに武士の要素を入れています。

雨清水家の品位は北川景子さんに任せておけば出るので、僕はあまり意識していません。セットや美術も大河ドラマかというぐらいすばらしかったですね。台本だけではわからない織物工場の規模感やどの程度の家柄かなど、セットに行くとよく分かるので役作りの面で本当に助けられました。