イラスト:大塚砂織

牛乳と牛肉が食卓から消える?

アメリカのコーヒーショップでは、ホール(全乳)、スキム(無脂肪乳)、ソイ(豆乳)など、好みに合わせてミルクの種類が選べる。ここまでは日本とそう変わらない。ところが先日ある店で「スキムカプチーノ」と注文したら、「うち、牛乳は置いてないわよ!」と返されて驚いた。

厳格な菜食主義の店ではないのだが、昨今の「牛乳離れ」の風潮を取り入れた結果だろう。代わりに揃えているミルクは、ソイ、アーモンド、オート(燕麦(えんばく))、ライス(米)と、すべて植物由来(プラントベース)。低糖質で高栄養価、食物繊維も豊富。「クセがなくて飲みやすい」と、最近特に評判なのはオートミルクだ。

2020年のアカデミー賞で主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスが、スピーチで環境問題を訴えたのも記憶に新しい。「人類は親牛を人工的に交配させ、仔牛が飲むはずの乳を奪ってコーヒーやシリアルに入れている」と、動物虐待の観点から批判した。

同様に「牛肉離れ」も進んでいる。全世界で排出される温室効果ガスの2割近くが畜産業関連で、特に肉用牛の排出量が多い。気候変動緩和のためにも過剰な食肉消費は減らすべき、というのが国際社会の常識になりつつある。昨年、国連気候行動サミットの最中にニューヨークでステーキを食べた日本の環境大臣が、どれだけ呆れられたことか……。

牛乳と同様、牛肉の代替についても研究開発が進む。植物材料で作られる人工肉や、動物を解体せず、可食部の細胞をラボで増殖させて作る培養肉などだ。ビヨンド・ミート、インポッシブル・フーズといった新興企業が牽引役となっている。

日本人は「植物性」と聞くと精進料理のようなさっぱり味を想像しがちだが、そこはお肉の大好きなアメリカ人。味だけでなく焼いたときの匂いや肉汁のしたたりも、植物性タンパク質で再現しようとするのが面白い。

肉モドキは割高で美味しくない、という昔の印象は拭われつつあり、マクドナルドやケンタッキーといったファストフードチェーンさえ、人工肉メニューの提供を始めて話題になった。同じ値段で同じ味なら、なるべく動物性でないものを。そんな未来がすぐそこまで来ている。(ニューヨーク在住・岡田育)