人との距離感がつかみづらくなったSNS社会

SNSの登場で誰でも手軽に情報発信できるようになった反面、それによって一般の人たちの日常生活がさらされやすい状況が生まれています。昔であれば、芸能人や一流スポーツ選手など一部の有名人の専売特許だったものが、今では一般の人も注目を浴びやすくなり、炎上と呼ばれるように、ネット上でバッシングの対象になることも珍しくありません。

「いいね!」やフォロワーの数が競われるようになり、「見られる自分」への意識も高まっています。自分を良く見せるため、例えば、「素敵なレストランで食事している私」や「高級リゾートで休暇を楽しむ私」など見映えの良い投稿を積極的に発信し、それ以外の代わり映えしない自分は隠しておく。そうすることで、実際の自分の人格とは別にSNS上の人格がつくられて、リアルとバーチャルの人格の分離が起きやすくなっています。

また、楽しそうで幸せそうな他人の投稿を目にすると、羨望や嫉妬を感じたり、「あの人に比べて自分はダメだ」と落ち込んだりします。SNSは確実に人と比べやすい社会を生み出しました。しかも、世界中の人が相手なので、羨望や嫉妬に際限がありません。

SNS以前は、友人にはたまに会って話をするか、電話やメールなどで近況報告する程度だったかもしれませんが、今はSNS上の友人知人の近況はほぼリアルタイムで把握できます。人との距離感が近くなった反面、人との心地良い距離感を保つことが難しくなりました。

知りたくなかった情報が勝手に飛び込んでくるし、知られたくなかった情報がオープンになってしまうこともあります。友人の投稿から自分だけが誘われていないことに気づいたり、逆に、自分の投稿から仕事だと偽って旅行に行っていたことがバレてしまったり。隠しておきたいプライベートな部分も露呈しやすいので、周りからの見え方にいつも気を張り詰めています。SNS上の断片的な情報から他人の行動を推察することも起きがちで、お互いに監視し合う状況が生まれているようにも思います。

『心を病む力: 生きづらさから始める人生の再構築』(著:上谷実礼/東洋経済新報社)