「つながりっぱなし」がもたらす脳の疲弊
自分を取り巻く環境がどのようなものなのか、あまり意識したことはないかもしれません。嫌なことや理不尽に思うことがあっても、「世の中とはこういうものだ」とあきらめているか、あるいは空気のように当たり前のものとして受け入れていることが多いのではないでしょうか。
本書では生きづらさは個人と環境との関係性の中に生まれると考えています。
本章本記事では、まずは環境に注目し、私たちが生きている現代社会はどのような社会なのか、私たちの生きづらさにどのような影響を与えているのか、を見ていきたいと思います。
現代人の仕事や生活を大きく変え、今や欠かせないツールとなっているのが、スマホとSNSです。スマホ社会、SNS社会の到来により、コミュニケーションや情報アクセスなどの面で格段に便利な世の中になりました。
一方、つながりっぱなしのネット環境が私たちに及ぼす影響に着目してみると、また違った側面が見えてきます。
スマホ以前であれば、「会社に戻ってから確認します」で許されたことが、スマホを持たされたことで、出先でもメールの返信や素早い対応が当たり前になりました。ある調査によると、24時間以内にメールの返信がないと「返事が遅い」と感じるビジネスパーソンは7割に及ぶそうです(「ビジネスメール実態調査2023」)。不便さゆえに確保されていたゆとりが消失し、常に仕事に追われがちな毎日です。
多様な情報が飛び交う環境では、情報の真偽を自分で判定することが難しく、また情報過多によるストレスも生じやすくなります。現代人が1日に浴びる情報量は、平安時代の人の一生分に匹敵するとも言われています。日々これだけ多くの情報に浸かっていると、脳が疲弊してしまいます。
いつでもどこでも、仕事や人間関係、娯楽など生活のすべてが手元のスマホの中にあるので、オン・オフの切り替えが難しく、気持ちが休まる時間がないのがスマホ社会と言えるかもしれません。
加えてSNSには、スマホを手放せなくなる中毒性が指摘されています。
Facebookやインスタグラムなどを使っていると、自分の投稿に「いいね!」やコメントがついていないか気になって、スマホを頻繁に見てしまうことがあります。精神科医アンデシュ・ハンセンの著書『スマホ脳』によると、その時、脳ではギャンブル依存症と同じことが起きているといいます。
人間の脳内では、報酬を得て快楽を感じるとドーパミンが分泌されますが、それだけでなく、「もしかしたらいいことがあるかも」と報酬を期待する時にもドーパミンが分泌されます。さらに、報酬が決まった時間に定期的に与えられる状況よりも、報酬がランダムで、いつ与えられるかわからない時ほど、脳の報酬系が活性化されることがわかっています。
ギャンブルは、「次こそは勝てるかもしれない」と思うから止められなくなります。SNSもそれと同じで、「いいね!」がいつつくのか不確実な中で、それを確かめたい欲求にかられて、スマホをつい手に取ってしまうというわけです。