
隙のない戦略を立てる
「日中関係の冷え込みは関係業界に打撃を与えるが、改善した時にうまく取り戻せるか。米中関係が難しくなった時に、両国の間で立ち位置をうまく取れるか。日本企業にとっても大事なポイントになる」=平井康光氏
「中国共産党の規律を維持して、党の分裂を招かない。そして、実力組織の軍と警察に自分のコントロールを効かせる。習氏は最大の注意を払い、統治に臨んでいる」=高原明生氏
伊藤4日目は、中国経済の先行きを取り上げました。中国経済は今、コロナ禍をきっかけにしたデフレ、長期化する不動産不況、そして関税による米中貿易摩擦という「三重苦」に直面しています。中国経済に対する厳しい見方が出ていますが、三菱総合研究所副社長の平井康光さんは、きっかけをつかむことができれば、再び活気を取り戻す可能性があると言われました。長くビジネスの現場にいた方の感覚として、興味深く聞きました。
番組で、中国の人型ロボットの開発を紹介しました。レベルはまだ高くありません。でも、中国には失敗しても再挑戦する姿勢があり、結果として社会に実装されるスピードは速くなると言います。もう一人のゲスト、東京財団主席研究員の柯隆(かりゆう)さんも、失敗を恐れる日本の社会と比較しながら、中国の国民性は強みになり得るとおっしゃいました。自由なイノベーションは、今の中国の体制と相容れないところがありますが、中国経済の潜在力に注意を払う必要はありそうです。
飯塚5日目は、習氏の権力構造について考えました。東京女子大特別客員教授の高原明生さんは、習氏に挑む動きは起きていないとの見方を示されました。天安門事件は中国共産党の路線対立も関係しており、習氏は党内の掌握を教訓にしていると言います。もう一人のゲスト、講談社特別編集委員の近藤大介さんも、習氏の不安は健康問題くらいだろうと話します。
一方で高原さんは、中国共産党は心配から逃れられないと強調しました。「社会主義市場経済」と称していますが、一党支配という政治のあり方と市場経済という経済のあり方には根本的な矛盾があります。近代化は社会の制度化や法制化を進めて、裁量で決められる余地を小さくします。独裁が弱まると心配になれば、そこに待ったをかけるでしょう。でも、同時に不満の芽を内包することになります。
中国はこれまでも、国内の不満をナショナリズムに変えてきました。米国のトランプ大統領は、新しい国家安全保障戦略で、中南米を中心とする「西半球」重視を打ち出しました。中国やロシアは、米国の関心の低下から生じる「力の空白」を見逃しません。朝鮮戦争の始まりもそうでした。また、2日目の放送で、前駐中国大使の垂(たるみ)秀夫さんは、高市氏はその後の展開まで読んで答弁したのだろうかと指摘しました。中国には冷静かつ毅然と対応するべきですが、地域の安定を維持する日本の戦略も問われています。

飯塚恵子/いいづか・けいこ
読売新聞編集委員
東京都出身。上智大学外国語学部英語学科卒業。1987年読売新聞社入社。 政治部次長、 論説委員、アメリカ総局長、国際部長などを経て現職。

伊藤俊行/いとう・としゆき
読売新聞編集委員
1964年生まれ。東京都出身。早稲田大学第一文学部卒業。1988年読売新聞社入社。ワシントン特派員、国際部長、政治部長などを経て現職。