専門家が独自の目線で選ぶ「時代を表すキーワード」。今回は、政治アナリストの伊藤惇夫さんが、「プロンプター」について解説します。

記者会見の時、総理はどこを見ているのか?

新型コロナウイルスの脅威が続くなか、その対応について、安倍総理がたびたび会見を開き国民に訴える機会が増えたが、ちょっと気になるのがその「視線」の行方だ。安倍総理は質疑に入る前に自ら発言する際、記者のいる正面を向くよりも、左右へ顔を向けることが多い。なぜなのか。実は、総理の左右両側に「プロンプター」が置かれているからだ。

そもそもプロンプターとはなにか。簡単に言うと、「原稿投影機」である。透明な板にモニターの文字を反転させて映し出すもので、その文字は映画の字幕のように流れるため、書かれた原稿を読み上げるよりも自然に話しているように見える。

プロンプターは企業のトップが新製品を発表する時や学術研究でのスピーチなどで使われている。政治の世界で活用する例は、それほど多くないが、安倍総理は以前から使用している。

日本の政界で初めてこれを導入したのは、1993年に誕生した非自民連立政権の細川護熙(もりひろ)元首相だといわれている。ちなみに細川元首相は、それまでの慣例を破って、立ったままで会見を行ったことでも有名だ。

たしかに、重要な方針の発表では慎重に言葉を選ばなければならないし、専門用語や数字の間違いなどがあってはならない。その意味では、プロンプターの活用はありだろう。

ただ、国民に向けて、強いメッセージや、心に届くような言葉を伝える時には、原稿に頼るばかりではなく、自らの「内」から出てくる思いを交えることも大切なのでは。