「ウィーク・タイズ」を持とう

自粛生活が続くなかで、友人や知人、離れて暮らす家族と会えず、それがストレスになっている方も多いでしょう。逆に四六時中家族と一緒にいるので息苦しい、あるいは家族が鬱々としたり怒りっぽくなって困る、といった声も聞きます。

人と人との関係性を表す言葉に「ストロング・タイズ(強い絆)」「ウィーク・タイズ(ゆるやかな絆)」というのがあります。強い絆とは、仲の良い人など、お互いのことをよく知っている関係性。自分をよくわかってくれる人がいるとほっとしますし、強い絆は幸福感につながります。

他方、ゆるやかな絆は、少し距離のある関係性を指します。ただ、そんなゆるくつながった関係だからこそ、「こんな生き方もあるんだ」「こういうことが自分もできるかもしれない」といった発見や気づきも生まれやすい。ゆるやかな絆のおかげで、これまでなかった新しい発想や可能性につながり、希望の源泉となることも多いのです。

強い絆が当たり前と思われがちな家族の関係も、見方を変えてみるといいかもしれません。何年一緒に暮らしても、夫のことなんて、本当にはわからないし、子どもも知らない大人になっていく。強い絆があると思い込んで相手に理解や共感を期待すると、かえってイライラする。家族もゆるい絆くらいでちょうどいいと割り切れば、風通しが良くなり、生き苦しさも和らぎます。

人は不安だと気持ちの刃をどこかに向けたくなるので、過剰に人のことが気になったりします。そんなとき、強い絆を求めてもギスギスするばかり。昨年は「ワンチーム」が流行語になりましたが、一致団結を求めすぎず、「社会も家族もゆるくつながる程度でいい」と考えれば、ストレスも減るでしょう。

 

「希望」を与える人は危険

今回の事態によって、働く機会を奪われたり商売が立ち行かなくなるなど、経済的に困窮する人も少なくありません。感染が収束しても、雇用の不安定さや経済の低迷はしばらく続くでしょう。複合的な要因からうつ病になるなど、心を病む人も出てくるかもしれません。

3月27日、雇用問題について意見を聞きたいと、首相官邸から呼ばれました。議論のなかである方が「希望を与えてください」という発言をしたので、私はあえて首相に「国民に希望を与えますとは言わないでほしい」と反論しました。国が経済的な補償をすることは大事です。しかし政治が国民に「希望を与える」というのは、ぜったいに違う。

厳しい状況では、多くの方が、自分たちに希望を与えてくれる政治であってほしいと願うのもわかります。しかし、政治家が「希望を与えてくれる人」に見えたときは危険です。立ち止まってよく考えたほうがいい。

20世紀、最も希望を与えた政治家は、登場直後のヒトラーだったという考え方もあるかもしれません。この人についていけば、第一次世界大戦で負った苦しみから解放してくれる。多くの国民が熱狂し、あの悪夢の時代が始まったのです。