「行間や余韻みたいなものを味わうのが小説の醍醐味だと思うし、それを信じて、僕たちはあえて書きすぎないんですよ。すると、読者から「中途半端に終わっている」と言われる。(笑)」(重松さん)

 

重松 2017年にみずほフィナンシャルグループが、ITやAIによる業務効率化で、2割強の人員を削減すると発表しましたね。これは象徴的な出来事でした。

新井 では、AIが肩代わりできない類の仕事というと、コミュニケーション能力や応用力が求められるもの──介護なんかそうですね。あと、屋根の雪おろし。屋根ごとに形が違うから、柔軟な判断が求められる。そういった肉体労働も代替されにくいです。

羽生 将棋の世界はサイバー空間で完結できるので、AIも猛スピードで進化しました。でも、自動運転はどうなのかというと、技術は進歩していますが、現実世界にはいろいろな社会的制約があります。一歩間違えば事故が起こる可能性もあるから、そう簡単にはいきません。

 

文章が読めない子どもたち

重松 AIやロボットは、決められた枠組みの中でしか計算処理できない。つまり、千差万別の状況に合わせるというのが苦手なわけでしょう。僕は今、大学で教えていますが、実は学生たちにもそういう傾向があるように感じます。

ということは、AIに仕事を奪われ、と同時に、AIができない仕事に就くこともできず……。それについて新井さんは、コミュニケーション能力や理解力の基盤となる「読解力」が、今の子どもたちに欠けていることを指摘されていますね。

新井 調査したところ、教科書や新聞から引用した200字くらいの文章の意味を理解することができない。算数の文章題を読んでも、何を問われているのかわからない。本来、AIよりも人間に優位性があるはずの能力がこの状態で、この先、どうなるのだろうという気持ちになります。

羽生 メールやSNSで大量の情報をやり取りしても、文章がけっこうパターン化されてしまっていますよね。パターンの外に出たときに対応できるかどうか、その経験が大事だと思うのですが。

重松 僕の立場から言えば、国語の授業で文学が扱われなくなる流れのなかで、文学作品をじっくり読む訓練をしなくなったのも問題ではないかと。行間や余韻みたいなものを味わうのが小説の醍醐味だと思うし、それを信じて、僕たちはあえて書きすぎないんですよ。すると、読者から「中途半端に終わっている」と言われる。(笑)

新井 本を精読、深読することは大事です。と同時に、これからのAI時代を生きるには、小説だけを読んでいてもだめだと思っているんです。