「ラボット」は人の顔を認識し、かわいがってくれる人に寄っていく

 

重松 新井さんは、大学は文系なんですよね。その後、数学者になったという異色の経歴で。

新井 文学と数学的な言葉、両方を読めると何がいいかというと、文章の行間や余韻も読めるし、エビデンスにつながる数字や式やデータなども読み取れる。両方のバランスが重要だと思うんですね。

重松 情緒みたいなものに引っ張られる恐れがない。

新井 だから、「AIって万能だよね」といった、実態とかけ離れたイメージをみなさんがもつことにガックリくるのです。

重松 「AIは万能」と対になっているのが「AIなんかに負けてたまるか」という感情論。小説家にありがちで、自分たちの世界を“聖域”に置いておきたい。そこを怯えながら守ろうと。

羽生 人の感情に訴える小説は、AIにはハードルが高くて書けない。この先もいちばん大丈夫な分野です。安心してください。(笑)

新井 代替されない職業だからこそ、余裕をもってAIと向き合えばいいのになあ、と思いますよ。

重松 そんなふうに泰然自若としている人間は、そもそも作家になっていなかったりして。ちっちゃいんですよ。(笑)

羽生 学ぶという点では、今ってすごく恵まれた時代で本も情報もいっぱいある。基礎的なことに関しては、別に学校に行かなくても調べられるという時代になっています。たとえば、すごいなと思ったんですが、ボウリングって最近、両手投げが主流なんです。

重松 そうなんですか。

羽生 小学生くらいの子がユーチューブを見て、投げ方を練習してマスターしている。先生に教わらなくても、見よう見まねでできるようになる。そういうふうに時代が変わってきているんですね。

新井 基本的な情報がネットや本で手に入るのはその通りですね。ただ、それにアクセスできるかどうかというのが、読解力だと思うんです。教科書や解説書があっても、読解力がないと「苦手だから読めない」になってしまう。

羽生 そうですね。もう一つ私が興味深いと思っているのが、ミネルバ大学という、アメリカに本部を置く大学の教育です。授業は全部オンラインで、学生は4年間で世界の7都市を転々とする。生活する各都市での社会貢献やフィールドワークが重要視されているのです。勉強も大事だけど、そこでAIと競い合っていくのは厳しい。日常の経験や遊びといったものも、実は大事なんじゃないかなと思います。