同じ「中学生棋士」として

「新時代」という言い方をした場合、その中心になるのはやはり藤井聡太七段なのだろう。彼についてはまず自分と同じ「中学生棋士」という視点で見てしまう。

『天才の考え方 藤井聡太とは何者か?』加藤一二三/渡辺明 著

中学生で棋士になったのは、加藤九段が最初で、谷川浩司九段、羽生善治九段、私と四人しかいなかったところで藤井七段が5人目になった。

それぞれのプロデビューは順番に1954年、1976年、1985年、2000年、2016年となる。多少のばらつきはあっても、およそでいえば、15年に1人くらいしか誕生してこない。自分では口にしづらいが、中学生で棋士になれたなら、それだけでもその才能が並大抵のものではないのがわかる。

プロ棋士=四段になるには、奨励会の三段リーグで成績上位二名に入らなければならない。それができないまま年齢制限に引っかかり(三段リーグに参加できるのは26歳の誕生日を迎える年が最後になる)、プロになるのをあきらめたくはなくても、あきらめるしかなくなる人も多い。中学生棋士は、目指したからといって、なれるものではないのである。

藤井七段の場合、年齢のわりにはAIの導入が比較的遅かったようだ。

聞いたところによれば、将棋ソフトを活用するようになったのはプロになる直前の三段リーグか、プロになってからだという。そうだとすれば、AIに触れる前段階ですでに将棋の骨格はできていたとも想像される。

一般的にいって、アマチュア四、五段から奨励会初段くらいのあいだにおよそその人の得意な型、勝ちパターンというものは形成されているものだ。いちど将棋の骨格ができてしまえば、その後にAIを導入したとしても、将棋のスタイルが大きく変わるものではない。

私にしても、奨励会にいた頃と現在をくらべれば、現在のほうが強いのは当然としても、指している将棋の骨格は大きく変わっていないと思っている。現代的な将棋に合わせたモデルチェンジを図ったあとにしてもそうだ。

そうした観点からいえば、藤井七段がいま指している将棋も、その骨格はアナログで築かれたものと見ていいだろう。そのことは藤井七段に限った話ではない。いまのプロ棋士は骨格ができてからAIによる勉強を取り入れた人がほとんどといえる。骨格ができる以前にAIで将棋を学んだプロが登場するのはこれからだと言われている。