息子の周作を出産。未婚の母となり、仕事への考えが変わった(写真提供:中園さん)

育児を手伝ったのは、前出の友人、木村である。中園に頼まれ、長男が2歳半になるまで世話をした。

「産後の1作目を書いていた時は、これに懸ける、という気迫で仕事部屋にこもっていました。子どもへの接し方には父性的なものを感じましたね。『For You』を書き上げた時、これまでのシッターさんたちと私に『感謝したい』と、バリ島の旅に招いてくれました。彼女の恋人も来ていました。気っ風がよく義理がたい、そういう礼を尽くしてくれる人です」

産休中、とても嫌な出来事があったと中園は話してくれた。育児手当が出ると先輩の母親から聞き、役所に出かけた時のことである。窓口で対応したのは若い男性。申請用紙に父親の名を書くように言われた。

「書きたくはないし、戸籍にも載せてないわけで、書けませんと言ったら『じゃあ、レイプされたんですか』と。ものすごく腹が立ちました。浴びせられた屈辱に耐えて、息子を乗せたバギーを押してエレベーターに向かったんですが、待てよ、と思ったんです。彼は、次に私と同じ立場の人が来ても同じことを言うんだなと。それで引き返しました」

気配を感じてか後方に逃げ込んだ青年に、「さっきのことですけど、私はレイプされていません!」と声を張り上げた。まるでドラマのシーンのごとしである。「あわてて上司の女性が出てきて、謝られました」。

屈辱がどれほどのものであったか、想像して余りある。だが中園は「いったい何の権限があって言うのか」と怒りつつも、「私が玉の輿にでも乗って暮らしていたら、味わえなかった感情ですね」と潔く笑った。

「弱い立場とか、不幸とか言われることは、すべていつかドラマの種になる」と、あくまで骨太で清々しい。

「私が未婚で産んだ時、励ましてくれたのは、既婚、未婚、子がいる、いないにかかわらず、バリバリ働いている女性たちでした。皆、理解があってやさしかった。むしろ子育て中の専業主婦の方たちが冷ややかで。でも今思えば、彼女たちは冷たいわけではなくて、私のような生き方に戸惑ったのだろうなと」