行きつけのスナック「帆久呂」。ママと話すと気持ちが落ち着くという(撮影:野村佐紀子)
最高視聴率34.2%を叩き出した伝説のドラマ『やまとなでしこ』の20周年特別編が2週連続で放送される。松嶋菜々子演じる神野桜子と堤真一演じる中原欧介の嘘から始まる恋物語だ。脚本家は中園ミホ。『ハケンの品格』『Doctor-X 外科医・大門未知子』、NHK連続テレビ小説『花子とアン』、大河ドラマ『西郷どん』と次々に話題作を紡ぎ出す中園の素顔は? 後編は脚本家を志したきっかけからーー(文=水田静子 写真=野村佐紀子)

〈前編よりつづく

激しい恋と失恋が脚本家への道を開いた

感受性が強く精神的に早熟だった中園は、10代半ばから奔放な恋愛を繰り返すようになる。満たされぬものを埋めるかのように、二回りも三回りも年上の男たちを愛した。

「……きっと、父を求めていたのでしょうね」

日本大学付属高校から大学まで一緒だった友人の木村宙は、中園をよく知る人物である。

「学内では、ひときわ個性が強く大物感が漂っていて、いずれ世に出る人だと思っていました。会話に大人のユーモアがあって、サガンや向田邦子の小説を好んで読んでいましたね。恋も多い人で、好きになったら決してあきらめない。でも相手に頼るのではなくて凜々しいんです」

その「恋愛体質」が、やがて中園を脚本家の道へと導くことになる。大学卒業後、広告代理店に就職したものの「まともにコピーもとれず、お茶汲みは下手、酒好きで飲んだくれては朝から酒臭い、使えないOLだった」中園は、1年ほどで退社し、新橋の雀荘の店員やコピーライターのアルバイトをするが、いずれも続かなかった。

この時期、中園は占いの仕事をして稼いでいる。母の友人に今村宇太子という高名な数気学の占い師がおり、14歳から師事していた。

中園ミホさんの最新刊『占いで強運をつかむ』マガジンハウス

「私のことを言い当てられたのがきっかけで興味を持ったんです。けっこうな収入になって、競馬場に行っては、帰りは帝国ホテルの鮨屋に乗りこんで(笑)。占い師をやってよかったのは、世の中のさまざまな人の裏の顔が見られたことですね。企業の社長が弱みを見せたり、母親の話で泣いたりする。人間ってチャーミングだなと思えた。この経験は確実に今の仕事に生きています」

そして26歳の時、年上のある脚本家に激しく恋をし、失恋した。

「自分よりも大切な存在ができるって、生物として危機的なことじゃないですか。これまでの恋愛は何だったのかと思わされた。でも『つきまとうな』と捨てられたんです」

ここで中園は思いがけぬ行動に出る。「せめて彼を感じていたい」と国会図書館に1年ほど通い、彼の脚本のすべてを書き写したのだ。

「その時、脚本というものの構造に気づいて、いきなり人生の扉が開いた感じでした。今度はがぜん、脚本そのものが面白くなったんです」