安藤 小渕恵三さんや亀井静香さん、それから野中広務さんといった戦争を知る政治家がいなくなった。特に野中さんのような沖縄に心を寄せてきた政治家の不在は大きいと思います。だから今みたいな問答無用のやり方の果てに、沖縄問題がこれだけこじれてしまった。

伊藤 戦争を知っている政治家がいなくなったのは怖いことです。後藤田正晴さんや、外務大臣を務めた伊東正義さんなども、保守ながらに強い反戦意識があった。第二次大戦に対する贖罪意識を持ち、二度と国民をああいう悲惨な目に遭わせてはいけないというのが彼らの前提になっていました。

安藤 時の流れの中でそういう人たちが亡くなるのは仕方がない。でもそれを受け継ぐ人がいないのが、大きな問題だと思います。かつては自民党の中でもバランスが取れていた。モノを言える空気や環境もあった。でも小泉以降そのバランスが瓦解し、平成の政治はそこでガラッと変質したと思うのです。

伊藤 戦争体験だけでなく、昔の政治家は数々の修羅場をくぐり、酸いも甘いもみ分けていた。その経験と知恵を後進に伝える役目を果たしていたのが、かつての派閥でした。しかし今の派閥にはそういう教育システムがまったくありませんから。

女性「活用」ではなく「利用」では?

安藤 ところで女性の目線で平成の政治を見ると、また別の風景も浮かび上がってきます。

伊藤 まず平成のはじめに「おたかさんブーム」がありましたね。大きな政党で初の女性党首となった土井たか子さんの社会党が、参院選で自民党を過半数割れに追い込んだ。土井さんが「山が動いた」と名言を残し、マドンナ旋風が吹き荒れました。しかしこれはすぐに失速してしまう。

安藤 次の衆院選で出してきた候補が労働組合のおじさんばかりだったのです。引き続き山を動かすのなら、もっと広いすそ野から候補を出すべきでした。あれを機に社会党は衰退の一途を辿っていった。

伊藤 結局、社会党も変化しきれなかったのですね。

安藤 自民党でいうと、自身の女性スキャンダルで宇野首相が辞任すると、後継の海部俊樹首相が森山眞弓さんを官房長官にしてお詫び行脚をし、次の衆院選に勝ちました。だいたい自民党では何か事件があったときに、クリーンさや革新性を印象づけるために女性を登用するということをずっとやってきた。

伊藤 それは女性の「活用」ではなくて、「利用」ですよね。

安藤 その通りです。時々の戦略に乗って女性が利用されてきたことは見逃せません。先日の衆議院の予算委員会で野田聖子さんが委員長に就任要請されたとき、安倍首相から「華が欲しいから」とお願いされたと新聞に載っていました。そういう女性の利用法は、平成の時代を通してずっと続けられてきました。