『光と窓』著:カシワイ

 

静かで短い名作7篇が漫画になって生まれ変わると

文学にかぎらずどんな作品でも、時代をこえて人々に愛されるのを見るのは気分がいい。この世に生まれてくる意味が、ちょっとわかったような気になるからだ。

昔のよい作品が、少しかたちを変えてあらわれた。静かで短い、日本語の作品の漫画化である。安房直子は「夕日の国」と「小さいやさしい右手」の2篇が採られている。少年とたわむれ、ことばさえ交わした少女がまぼろしの存在だった話と、人間にひどいことをされてしかえしがしたかった魔物の話だ。小川未明の「金の輪」も、病気の少年が見た美しい光景を描く。著者の描画はふんわりとして淡いが、光と闇とのコントラストを表現するのがうまい。夜の集落に点在する人家の窓あかりの美しさ(新実南吉「ひとつの火」)が印象にのこる。

草野心平は「ごびらっふの独白」が選ばれている。〈けるぱうりりるうりりるびるるてえる。〉この詩人独特の「かえる語」のひびきのよさと日本語訳の気高さが胸をうつ。

しかしなんといっても、巻末におさめられた宮沢賢治「注文の多い料理店」がいい。有名なあのストーリーは描かれていない。絵になったのは、童話集『注文の多い料理店』の序文である。〈わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。〉から始まり、〈わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。〉まで。ここを選んだ目の高さに感じ入る。美しいもののもつ強い力がまっすぐ伝わってくる。

『光と窓』
著◎カシワイ
リイド社 800円