家事なんてぜんぶ「母親からの呪い」

阿古 さっき瀧波さんが軍隊のように家事を仕込まれた、とおっしゃっていましたが、私もなんです。うちの母も厳しかった。

瀧波 結婚したての頃は餃子の皮でもおやつでも、なんでも手作りしたかったし、掃除はホコリひとつないように、と。女って、子どもの頃に“呪い”をかけられているなと思うんです。

伊藤 そうそう。家事なんて全部呪いでしょ、母親の。母もまたその母にかけられている。

阿古 私にかけられていた呪いは、「何か言われたら速攻でやらなければならない」というヤツですね。そうしないと母にものすごく叱られたから。でも私が夫に何か頼んでも、夫は自分のタイミングで、好きなときに動く。最初はそれにイライラするのも面倒くさくて、夫に頼まずに自分でやってしまっていましたね。

瀧波 呪いも、家を出るとか、結婚するとか、状況が変わると解けるんですよ。大学に入ってひとり暮らしをしていたとき、私のアパートは汚部屋でしたもん。それが家庭を持った途端、まるで母親が私に憑依したかのように、掃除だ片付けだと腕まくりして。夫は少しぐらい汚くても平気なタイプなので、私もそのうちそこまでしなくていいのかな、とやっと気が付いた。

伊藤 まあ、結婚って、男と暮らすというよりは異文化交流だと、あたしは昔っから唱えてます。

阿古 常にかいがいしく働かなきゃいけないというのは、都会の主婦もそうですが、田舎育ちの女は、農作業、家事と、全部やってきた。うちの母は田舎育ちでした。私は母にものすごく反撥したけれど、やっぱりどこかで刷り込まれている。

伊藤 日本の社会がどんどん変化しながら、主婦と呼ばれる人たちが生まれて、広がって、主婦論争が起きて、核家族が増えて……。呪いや刷り込みも、世の中の動きと連動していますよね。

阿古 そうですね。戦後の主婦は、家族のためにかいがいしく働くのがあるべき姿だと思い込んでいた。それを見た子どもたちも刷り込まれてしまった。

瀧波 でも戦後の男女平等思想とか、勤労婦人の誕生だとか、新しいことも起こるじゃないですか。私の母って、本当は自立した女になりたかったみたいなんです。だから家事をバリバリやる一方で、なんで自分がこんなことをしなければならないのか、私はこんなところで終わる人じゃないと、不満をため込んでいた。常にビシッと完璧なメイクをして、いつも怒っているような人でしたね。

〈後編につづく