イラスト:吉泉ゆう子
あなたには、「友人」と呼べる異性はいますか。結婚後は交流が途絶してしまうケースも多いようですが、女友達とはまた違った、味わい深い関係性を築いている4人の女性たちに話を聞きました。今回紹介するのは、テレビ局員のシオリさんと会社員のキョウコさんのケースです。(イラスト=吉泉ゆう子)

更年期に重いうつに陥った私を誘い出してくれた

双方の配偶者も認める深い友情を育んでいるシオリさん(62歳)は、テレビ局員。広告代理店に勤める佐野さん(60歳)と仕事を通じて知り合って15年が経った。

雑談していたら最寄り駅が同じであることを知り、半年後にシオリさんが地元の居酒屋にふらりと入ったところ、佐野さんと遭遇。そこから、月に1度は必ず会う飲み友達となる。

恋愛感情を抱いたことはないが、シオリさんは、佐野さんとの会話がたまらなく心地よいという。

「彼は本をよく読んでいて、何にでも造詣が深い。人やモノの好き嫌いの波長も合うし、いつまでも話していられるんです」

お互いの配偶者のこと、恋愛話、政治から他愛もないゴシップまでを肴に語り合った。息子が思春期の真っ最中だった頃は、同じく息子を持つ佐野さんに、子育ての悩みを相談したこともある。広い人脈と行動力のある佐野さんが、会合やしゃれたイベントの機会を捉えては、シオリさんをすぐ誘ってくれる。お互いに、酒の席での失敗や、人には言えない秘密を教え合い、叱ったり呆れたりも重ねてきた。

大人の青春を謳歌していたシオリさんが、更年期や人間関係のトラブルから体調を崩したのは50代の初めのことだ。重い抑うつ症状が出て、仕事はおろか日常生活もままならなくなった。夫との関係も不安定になり、一時は離婚が頭をよぎる。

家に引きこもるシオリさんを、佐野さんは熱心に地元の店に呼び出しては、まとまりのない話をひたすら聞いてくれた。気がつくと、うつ症状は快方に向かっていたという。

「何度断られてもあきらめずに私を連れ出してくれて、すごく救われましたね。夫とのことを相談したときも、なんでも共感してくれる女友達とは違って、佐野さんは同じ“夫”の立場で彼の気持ちがわかると言い、私が思ってもいなかったようなアドバイスをくれたんです」

彼と飲むから遅くなる、と夫にはいつも伝えている。夫婦ぐるみで飲み会をし、旅行に行くことも。4人でも盛大に飲むが、ふたりきりのときよりは少し遠慮がちにしている、と笑う。

「でも結局社会や政治の話をして、気がつくと私と彼で激論に。夫と彼の奥さんが、苦笑しながらそれを見守っています」

お互い人生の終盤が見える年齢に差し掛かってきた。シオリさんの最大の心配は、お互いの健康が損なわれることだ。いつまでも話ができたら楽しいだろうと想像しているから。

「夫婦であれば、倒れてもいっしょにいられるけど、佐野さんとは会って飲んで話すことがかなわなくなる。今の一番の夢は、お互い元気に長生きして、ゆくゆくは同じ老人ホームに入ることですね」

終始、よどみなく生き生きと話していたシオリさんが、ふと遠くを見てつぶやいた。