飼育スタッフの遠藤倫子さんは大学の獣医学部応用学科で学び、アドベンチャーワールドに就職。左奥には永明が

自然に近い環境を

パンダの発情期はとても短いため、交尾を成功させることは難しい。また、誕生時の体重は100~200グラムと、巨大な親に比べて極端に小さい。生まれてすぐに母親が抱いてくれないと、体温が低下して死ぬこともある。

「親が気づかず踏み潰すこともあるのです」と遠藤さん。産んだ子を母親が放置することもあり、そういう場合は素早く取り上げなくてはならない。出産してからも気が抜けないのだ。

これまでに15頭ものパンダを自然妊娠の末に誕生させ、飼育してきたアドベンチャーワールドだが、熊川さんは「特別なことはしていないのです」と言う。

「私たちが日々心掛けているのは、いかに自然に近い状態でパンダに暮らしてもらうか、ということです。例えば餌ですが、基本的にパンダはリンゴでもニンジンでも、なんでも食べます。蜂蜜も大好き。昔は、パンダが食べる食材をいろいろ練り合わせて、団子も作りました。ところが、カロリーの高いものを与えるとお腹を壊したり、体調が悪くなることが多かったのです。

だから、現在は餌の9割以上を竹にしています。竹は栄養価が低く量を食べなくてはならないので、供給側は大変。特に永明は超グルメで、竹を徹底的に選別し、気に入らない竹――潮風に晒された竹や排気ガスがついた竹などには見向きもしないんです(笑)。

餌の竹は大阪・岸和田市や京都府から供給されていますが、永明が食べてくれる竹を見つけるまで、試行錯誤の連続でした。10キロくらいの竹を抱えては何度も運んで、食べるまで与え続けました。女性の体力ではきついですね」

繁殖については、さぞかし特別な技術があるのでは? そう思って尋ねると、「できるのは発情期を見極めて、オスとメスを同じエリアに入れることだけ。そこに至るまでの体調やメンタルの管理をするのが私たちの仕事です。だからスタッフには、パンダの微妙な変化を読み取る観察眼が求められます。必要なときにしっかりパンダをサポートできるよう、10人の飼育スタッフがローテーションでお世話をする。子育てについても、自然に近い状態で親子だけの時間を作るよう心掛けています」