生後29日の結浜を抱く良浜(写真提供:アドベンチャーワールド)

グレートマザー

しかし、繁殖への道は険しかった。残念ながらメスの蓉浜は日本に来て3年後に死んでしまう。代わりに、2000年7月7日に新たな繁殖個体として梅梅(めいめい)がやってきた。梅梅は、来園したときには人工授精により子を身ごもっており、同年9月6日に良浜を出産。その翌年、初めて永明と交尾をした。熊川さんは、「スタッフはものすごく緊張していました。交尾に失敗したペアは2度と交尾をしないと言われているからです」と、当時を振り返る。

幸い、永明は非常に優しい性格で、梅梅に気に入られたという。

「いい男だったみたいですね(笑)。梅梅が来たとき、永明はでんぐり返しをして喜びました。来日した当初は体調に不安があった永明が、こんなすごいパンダになるなんて……。夢みたいですが、先輩たちの努力が実りました」

熊川さんは東京の動物専門学校を卒業後、アドベンチャーワールドに就職。03年から本格的にパンダ担当を任された。長きにわたりパンダ飼育に関わったが、現在は遠藤さんらに託し、海の動物たちの管理に従事している。

永明と梅梅がもうけた子どもは全部で6頭。梅梅は中国で「グレートマザー」と尊敬された。とりわけ中国の飼育関係者をも驚かせたのが、「2頭抱き」。野生のパンダは、双子を産むと身体の丈夫なほうだけを育てて弱いほうを捨てるとされる。

「だから、双子が生まれたときは“入れ替え保育”と言って、2頭を入れ替えつつ、どちらも成育させるよう努めています。しかし梅梅は、同時に2頭の育児をした。飼育下で、2頭を同時に抱いて授乳させたパンダは世界でも梅梅だけでした」と熊川さん。

梅梅が亡くなったのは08年。この年に、梅梅と別のオスとの子である良浜が、永明との子である永浜(えいひん)と梅浜(めいひん)を出産した。そしてその後、良浜は梅梅に負けじと9頭もの子を産み、アドベンチャーワールドのパンダファミリーを世界一の大家族にした。

パンダ飼育に長年携わった熊川智子さん