そんな伊沢さんがこの度、石ノ森章太郎さんの『マンガ日本の歴史』の新装版刊行にあたって、推薦人を務めることに。石ノ森さんの著作権を管理する石森プロを訪問した伊沢さんが、その創作秘話に迫ります
読めば歴史が好きになる
1989年、石ノ森章太郎さんによって、歴史マンガの金字塔『マンガ日本の歴史』シリーズが生み出されました。全55巻、5年と8カ月の歳月をかけて描かれたこの全集は、歴史の学習、受験勉強、大人の学びなおしなど、多くの読者に読み継がれており、累計950万部を突破しています。
誕生から30年以上たった2020年11月、『マンガ日本の歴史』が『新装版』として新たに刊行されることになりました。推薦を「東大卒最強のクイズ王」伊沢拓司さんが担当。伊沢さんが石森プロを訪ね、石森プロ代表取締役会長の柴崎誠さん、かつて『マンガ日本の歴史』でアシスタントを務めた早瀬マサトさんに、当時の日々を聞いてみると……。
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伊沢拓司さん(以下、伊沢)『マンガ日本の歴史』を読ませていただいて、驚きました。これだけの熱量の作品を、55巻もよく描き続けたな、と。
早瀬マサトさん(以下、早瀬)いま振り返っても、もう、苦労しかなかったです(苦笑)。毎月描き続けるだけでも大変なのに、「歴史マンガ」なので、研究者の先生方による時代考証もあったわけです。例えば、『当時、こんなに大きな木はありません』という指摘が入る。実写に比べ、マンガ表現に優位性がある『デフォルメ』が禁じられてしまうんです。そうした制約との戦いでもありました。
柴崎誠さん(以下、柴崎)しかも、当時石ノ森先生は『HOTEL』の連載も抱えていた。そんな多忙のなかで生み出された作品なんです。
伊沢 一番すごい、と感じたのが、歴史が正確に描かれているのに、ストーリーとして読んでもとても面白い、というところです。大きな事件や政治制度の話もしっかり描かれていて、かつ、人物描写も丁寧です。マクロとミクロの切り替えが非常に素晴らしいと感じました。例えば、織田信長が亡くなるまでの一連の流れも、当時の戦乱の状況に加えて、信長の感情、秀吉の語り口、信長の命を狙う人物の視点、それぞれが緻密かつ巧みに描かれていて、自然に物語が頭に入ってくる。面白かったですね。
柴崎 いま読み返してみても、なんとなく、タイムマシーンに乗って、その世界を見ているような感覚になるんです。そばで見ているような気持ちになる。
伊沢 しかも、上質なタイムスリップツアーというか、丁寧に厳選してくださっていて『お得』な見せ方をしてくれているという感じがします。
柴崎 石ノ森先生は若くしてお亡くなりになったのですが、もっともっと、多くの作品を残していただきたかったですね。
伊沢 石ノ森先生が残した「萬画宣言」のなかに、「萬画とは、老若男女、万人の嗜好に合う(愛される、親しみやすい)メディアです。」と書かれていますね。石ノ森先生の『日本の歴史』を読んで、まさにマンガは情報伝達のメディアだと感じました。先生の作品を通して、もっともっと、新しい世界に触れる人が増えるのではないでしょうか。