イラスト:曽根恵
離れて暮らす親の老いが目立つようになると、そろそろ介護について考えておかないとと思う方も多いでしょう。しかし往々にして、「その時」は予期せぬタイミングでやってくるもので──。思いがけず親との同居生活になだれ込んでしまったという、3組の家庭の事情と同居後の試行錯誤を聞いてみました。3人目はイラストレーターの奥田美穂子さんのケースです(イラスト:曽根恵)

震災直後の混乱のなかで始まった同居

夫婦2人でのどかに暮らしていた奥田美穂子さん(仮名・58歳・イラストレーター)が、夫の両親と同居することになったのは、阪神・淡路大震災により、夫の実家が全壊してしまったからだった。

「25年前のあの日のことは、忘れられません。慌てて神戸で暮らす義父母に電話をしたところ、2人の無事を確認できて一安心。私たちはすぐに車で神戸に向かいました。避難所に身を寄せていた義父母をみつけ、車に乗せて東京へUターンしたのです」

混乱のさなか、とにかく東京まで戻ることしか考えていなかったと、奥田さんは当時を振り返る。そして「まさか、あれが19年間にも及ぶ同居生活の幕開けだったとは」と言って苦笑した。

「当初、義父母はお客様だったんです。私は料理を振る舞い、お布団を整え、いろいろと気遣いました。でもいつになっても神戸に戻るという話が出ない。私たち夫婦が暮らしていたのは家賃3万円の1LDKの社宅だったので、狭すぎて3ヵ月くらいで限界に達しました。

家賃15万円の古い一戸建てへ引っ越し、義父母が1階、私たちが2階で暮らすことに。義父母は息子夫婦に頼るのは当然と思っているようで、夕方6時になると、揃って食卓について料理が出てくるのを待っている。私お手伝いさんじゃないんだけど、ってカチンときて。

数ヵ月後には義母が勝手に猫を飼い始めるし。もともと義父母のことは好きだったのに、気づけば不満が膨らんでいました」