シネマート六本木で行われた『太秦ライムライト』の舞台挨拶の後、劇場の外では出待ちのファンに取り囲まれ、記念撮影の嵐に巻き込まれた

痛いなんてよう言わん

撮影所に所属してからの数年は、大勢で斬り合いをするシーンばっかり。出演した作品を楽しみにして観とったけど、画面のフレームにすら入っとらん。がっかりや(笑)。なんとかしてカメラに映ろうと、自分なりに必死に考えた結果、主役と絡めばええんやと気がついた。それからは友人と立ち回りの練習をしたり、家でも布団の上で、どう倒れたら迫力が出るかと研究を重ねました。

今は監督の「カット!」の声を合図に、俳優やスタッフたちはモニターの映像をチェックしに集まります。モニターを見れば役者たちの動きや映り方が一目瞭然、自分の位置もすぐわかる。けど、モニターが導入される前は、自分で見当をつけるしかない。経験を重ねるうちに、カメラとの距離でどんなふうにフレームに収まっているかわかるようになる。斬られて倒れて、さっと起き上がってすぐに別の場所に走って行って、また別の侍として斬られる、なんてこともできるようになるんです。

斬られ役を究めようと決めてからは、次第にどんな映画を観ても、アクションに目が行くようになりました。ある時、チャップリンさんの映画を観ていて、ハッとしたんです。彼が頭からドーン! と倒れると、ものすごい衝撃がスクリーンから伝わってきた。そしてそこで観客がどっと沸く。アクション映画ではなく喜劇映画なのに、すごい迫力やった。

なぜそうなのかというと、彼が加減をせずに本気で落ちて倒れてるから。観る人に「うわっ、痛そう!」と思ってもらうには、ホンマに痛い倒れ方をせなあかん。喜劇人からそれを教わった。そういう意味で、昔は「映画は痛みでできている」と思ったもの。今はCGで簡単に作れますけど、違いは歴然としてますわ。

もちろん、あえて痛い思いはせんでいいんですよ。これはわしのやり方。本気で倒れれば体は痛いし、年中、打ち身だらけです。でも、痛いなんてよう言わん。病院だって行くことありまへん。そんなこと言ってたら、わしらの世界では仕事がなくなります。大怪我せずに今までやってこられたのは、運がよかった。