ヴィオラ母さん
文藝春秋 1300円
この母にしてこの娘あり
「私を育てた破天荒な母・リョウコ」。この副題に偽りなし。勤めていた会計事務所を27歳で辞めて、両親からは半ば勘当されながら単身、新天地・北海道で札幌交響楽団のヴィオラ奏者に。新婚早々に夫に先だたれ、シングルマザーとして娘を育てたリョウコの半生は、波瀾万丈、規格外である。
平日に子どもと顔を合わせるのは、早朝と夜遅くだけだったが、それでも母は、自分の生きたい道を進むことの素晴らしさを背中で示し、わずかとはいえ、子どもといる時間には、たっぷりと愛情を注いだ。その生活も愛情も規格外である。
忙しいからと化粧はせず、洗濯せっけんで顔を洗い、弁当は食パンにマーガリンと砂糖を塗ったもの。ズル休みは放任……。何から何までフツーじゃないが、ものの豊かさによる幸せではなく、お金では買えない幸せの大切さを子どもに伝えた。
その母に背中を押され、14歳で欧州をひとり旅し、17歳からは10年間、イタリアに絵画留学したのが長女マリである。娘もまた波瀾万丈で、美術学校時代は貧乏暇なし。とはいえ、好きな道をとことん探した。それを支えたのもまた母であった。留学先で未婚の母となり、帰国したマリを迎え入れた母は、一瞬の驚きの後に「孫の代までは私の責任だ」と満面の笑みで言い切ったという。この母にしてこの娘あり。『テルマエ・ロマエ』で知られる漫画家とその母の半生は、まるで朝ドラだ。
「鼻息の荒さは母譲り」という著者の文章は躍り、若い日の家族写真はほほえましく、母娘のエピソードを描く短編漫画は爆笑ものである。三拍子そろった面白さ。2万5000部を超え、好評なのもむべなるかな、である。