相談者は、基金から渡されたお金で一息ついた後は、瀬戸さんらNPOの支援者が同行して生活保護を申請。コロナ禍による申請件数の増加にともない、生活保護の受給希望者を行政の窓口で追い返す《水際作戦》をとる自治体も。それでも粘り強く交渉し、アパート転居まで見届ける。

「生存権は公に認められた権利です。フードバンクの食料を渡して、これで2週間食いつなげという乱暴な自治体もあり、現場はかなり混乱しています」

 

貧困は自己責任ではない

「甘いものを食べるなんて、久しぶり」

田中公子さん(39歳・仮名)は、待ち合わせをしたファミレスでうれしそうにパンケーキを頼んだ。神奈川県の港近くの公園で、10日間ほど路上生活を送り、所持金50円になったところで支援につながった。

20年5月7日、田中さんは、それまで住んでいたシェアハウスから一方的に追い出された。4.2畳、光熱費込みで4万5800円の部屋は、突然鍵が替えられ入室できない状態に。収入が減り、1ヵ月分の家賃を滞納していたからだ。

田中さんは夫の精神的DVから逃れるため、19年に神奈川県にやってきた。携帯電話会社のコールセンターの契約社員として働き、初期費用の少ないシェアハウスで生活していた。ところが4月、勤務先に感染者が出て、事務所は閉鎖。従業員は2チームに分かれて、隔週勤務に。時給換算の給料は、減額のうえ遅配になった。そして4月分の家賃を滞納した。

「会社での感染も怖かった。家に荷物を置いたまま締め出され、財布と携帯だけ持って友人の家に滞在しましたが、それも3日が限度。そこから路上生活になりました」