尾上松也さん(右)と尾上右近さん(左)(撮影:岡本隆史)
歌舞伎の世界はもちろんのこと、ドラマや舞台にも活躍の場を広げている尾上松也さん、尾上右近さん。おつきあいを大事にする世界で、二人が学んだ人間関係の極意とは──。長年歌舞伎界の取材を続け、役者さんとの親交も深いエッセイストの関容子さんが聞きました(聞き手=関容子 撮影=岡本隆史)

歌舞伎以外の現場は旅している感じ

 気を使うことがとりわけ多い歌舞伎界のおつきあいについて、今日は若いお二人にお聞きしますが、お見受けするところ、あまり先輩後輩の隔てがないようですね。

松也 ええ、僕は右近君のお兄ちゃん(清元斎寿さん)とは高校の同級生でして、右近君は妹(新派の春本由香さん)と同い年、よく4人で遊んでましたから。

右近 8つも年の離れた歌舞伎界の先輩なんですが、兄貴のような存在で、タメ口で話してしまいます。普段先輩にはちゃんと敬語で接しますけど、松也さんにだけは友だちみたいに話してしまうのは、やっぱり家族ぐるみのおつきあいの時間が長かったからだと思います。

松也 二人でプライベートな対談はたくさんしているけど、こういう場での対談というのはあまりなかったかな。

 お二人の舞台での共演は。

松也 2017年の『連獅子』で親獅子、仔獅子と……。

右近 僕の自主公演「研の會」での『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』で、僕(娘お舟)が一方的に恋してしまう新田義峯役でも出ていただいたり。

 歌舞伎以外の演劇や映像の場に参加なさるとき、普段のおつきあいとは感じが違いますか?

松也 たとえば2020年に僕が出演したドラマ『半沢直樹』には、歌舞伎の先輩方も出ていらしたけど、歌舞伎のときとは全然違いました。いい意味での開放感というか、旅をしている感じになるので、普段とはまったく違っていましたね。

右近 僕は内弁慶みたいなところがあって、7つのときからいる歌舞伎の世界はほとんど身内感覚でいてしまいます。そこから一歩出ると、自分の伝え方に迷うけれど、腰を低くするのは自分を理解してもらうまでの保険みたいなものでしょうか。毎回毎回、共演する人の色に合わせるのが好きなんですが、合わせすぎていつの間にか受け身になってはいけない、というのが最近のテーマです。

松也 歌舞伎以外の分野に行ったときには、その分野の大ベテランがいらっしゃるわけですし、そこに行くと歌舞伎の先輩方も僕も同じ新人みたいな気持ちになるんです。そこが新鮮でいいな、と。