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おにぎりとテニスボール

陣痛が来たのは3月6日のことだった。最初は生理痛の酷い感じ、これなら耐えられるわ、と思った。しかし、すぐに耐えられない痛みになった。医師に何度聞いても、「子宮口が開いていないので、まだまだですね」と言われた。

産む瞬間に痛いのではなかったのか、話が違う、腰が砕けるのではないかと思った。助けて、というわたしの懇願に、助産師さんは

「大丈夫ですよ、ちょっと歩いてみましょうか」

と言った。

次に来た助産師さんは

「おにぎりを食べてみましょうか」

と言った。

次に来た助産師さんは

「お風呂に入ってみましょうか」

と言った。

次に来た助産師さんは

「お父さんにテニスボールでマッサージしてもらいましょうか」

と言った。

次に来た助産師さんは

「赤ちゃんも頑張っていますよ、もう少し早く出てきてねって赤ちゃんにお願いしてみましょうね」

と言った。

ちがうちがう! そんなことじゃなくて!

わたしは助産師さんに頼んで「医師を呼んでほしい」と言った。

「この痛みは尋常じゃないからどうにかしてほしいのです」と。

忙しそうに現れた医師に、わたしは言った。

「耐えられないです、もう、おねがいだから、なんとかしてください」。

すると医師は助産師さんにこう言った。

「CDプレーヤー持ってきてあげて、モーツァルトをかけよう」

モーツァルトを聴くと痛みが和らぐのだと言う。なるほど。なるほどじゃないわ! わたしは意識が朦朧とするなか、全員どうかしていると思った。